原料図鑑 · 7
原料図鑑:シトラール — レモンの匂いの本体にして、IFRA制度の模範生
· 9 分
レモン油の主体は実はリモネンで、本当に「レモン」を語る分子はシトラール — ゲラニアールとネラールという双子のアルデヒドの総称です。IFRAの定量的リスク評価論文の作業例であり、皮膚科患者1,476名の実測で2.9%の陽性率の出どころでもあります。135社が扱い、安く、鮮烈で、「明るさの代価」を教えてくれる1本。
処方に「ナイフで切ったレモン」が欲しいなら、これを取ってください。レモン油ではあの鋭さは出ません。
先に要点
- シトラールこそ「レモンの匂い」の代表分子。鋭くて、フレッシュで、皮と酸。明るさが欲しいならこれ。
- 名前はひとつでも、中身は2つの分子の総称です:ゲラニアール+ネラール(同じ骨格のシス/トランス双子)。ゲラニオールが古くなると育つレモンの縁は、まさにこの2つ。
- 明るさには代価があります。香料アレルゲン一覧の常連で、IFRAの定量的リスク評価論文が作業例に選んだのもこの分子。肌に載せる処方は限度値を確認、嗅ぐだけなら通常どおり。
基本記録
| CAS | 5392-40-5 |
| 分子式 | C₁₀H₁₆O |
| 分子量 | 152.24 |
| 香調 | 鋭い、レモン、甘い、フレッシュ、ジューシー、レモンピール、酸味、グリーン |
| 強さ | 中 |
| 持続性 | 12時間(原液、ムエット上) |
| 比重 | 0.885–0.891(25 °C) |
| 推奨保存 | 24か月以上(冷暗所、密封) |
| 収載名簿 | GRAS、JECFA、CoE、FEMA GRAS、IFRA |
持続12時間はリナロールと同級で、トップノートの気性、来るのも去るのも速い。香気語の先頭は「鋭い」。原液を嗅げば納得します。
これは何か
レモン油はたしかにレモンの香りがしますが、主体は実はリモネンという、より淡いオレンジピール寄りの分子です。「レモン!」と叫ばせているのは、ずっと含量の少ないシトラールのほう。だからレモン感を強めたいとき、調香師はレモン油を増やすのではなく、シトラールを直接足すのが普通です。
そしてシトラール自体が総称です:ゲラニアールとネラール、同じ構造のシス/トランス異性体(平たく言えば:同じ骨格の一部分が逆を向いている)。ゲラニオールの回が前半を語りました。ゲラニオールが酸化して育てるアルデヒドが、まさにこの双子です。2つの物語がここでつながります。
天然側でシトラール豊富な精油といえば、定番はレモングラス(88社)とリツェアクベバ(アオモジ)(71社)。「天然のシトラール感」が要るとき、カタログでの答えはたいていこの2本です。
明るさの代価:感作性の実測値
2020年、Hagvall ら(ゲラニオール酸化研究と同じ筆頭著者)が Contact Dermatitis 誌で多施設パッチテスト研究を発表しました。接触皮膚炎が疑われる皮膚科患者1,476名が、シトラールとその成分で検査を受けています。
| 検査物質 | 陽性率 |
|---|---|
| シトラール | 2.9% |
| ゲラニアール | 3.4% |
| ネラール | 1.9% |
| シトラールまたはゲラニアール(合算) | 4.2% |
対象集団を明示します(保管の回以来の決まり):これは接触皮膚炎疑いの皮膚科患者であって一般人口ではありません — 数字はそのまま一般化できませんが、方向は明確です。シトラールは現実世界でよくある香料アレルゲンです。
同じ研究に、2つの図鑑をつなぐ所見があります。
シトラールまたはその成分に陽性の患者のうち、61%が酸化ゲラニオールにも反応した。未酸化のゲラニオールでの検査は価値が乏しかった。
ゲラニオールの回は「古い瓶にはシトラールが育つ」と述べました。これはその臨床版です。シトラール(またはその成分)にアレルギーのある人の6割超が、酸化ゲラニオールにも反応しました。あなたの酸化した瓶は、その人たちにとって同じ問題である可能性が高い。2本の瓶が、同じ一組の感作分子を共有しています。
IFRAの模範生
IFRAの回で引用した Api と Vey の2008年論文では、RIFMとIFRAが皮膚感作の定量的リスク評価(QRA)を感作予防の中核戦略とし、11の製品カテゴリー別に限度を設けています。その論文で許容暴露量を一歩ずつ導く作業例に使われたのが、シトラールです。
制度の中でのシトラールの位置づけは、「製品カテゴリー別の濃度制限」の教科書的事例です。顔用製品、ボディローション、キャンドルで上限がそれぞれ違う。IFRAが抑えているのは最終製品の中の濃度で、原料そのものは今もふつうに買えて使えます。
実務はいつもの三分法です。嗅ぐだけ(ムエット、芳香拡散)なら通常どおり。肌に載せるなら現行IFRAスタンダードの該当カテゴリーの限度値を確認。販売するなら販売地の法規に従う。
嗅ぐときは
- 10%から。表示は中の強さでも気性が鋭く、原液は刺さります。
- シトラスのアコードでは明るさのつまみになります。1〜2%で目に見えて明るくなる。ベルガモットと重ねるときは、フロクマリンと感作原の帳簿が別勘定であることを忘れずに。
- トップノートの宿命で、12時間、輝いて去ります。ミドルへの橋渡しは揮発曲線の回の宿題。
- これ自身も酸化します。アルデヒドの宿命です(保管の回の窒素リストは親戚だらけ)。小分け、遮光、開栓日。私も最初の瓶は大きいサイズを買ってしまい、使い切る前に匂いが変わりました。
カタログ上の一族
| 品目 | 何であるか |
|---|---|
| citral(135社) | 本体(ゲラニアール+ネラール) |
| lemongrass oil(88社) | シトラール豊富な天然の定番 |
| litsea cubeba fruit oil(71社) | もう1本の高シトラール精油 — よりクリーンなレモンキャンディ調 |
| citral dimethyl / diethyl acetal(27/25社) | アセタール形 — 石鹸・アルカリ基剤で安定(バニリンのアセタールと同じ手) |
買うときは
- 135社が扱っていて安い。この1本の宿題は新鮮さで、価格比較は二の次です。アルデヒドは小瓶で、新しいロットを。
- 肌用処方は設計の前に限度値を(IFRAの回:限度値は設計条件です。書き始める前に引いておくもの)。
- ゲラニオールと一緒に管理してください。2本で1つのアレルゲン家族なので、控えと開栓日の記録はひとつの仕組みにまとめると楽です。
→ データベースのシトラール:全物性、供給業者一覧、推奨の組み合わせ。 → レモングラス|リツェアクベバ|香調で検索:「レモン 鋭い」で隣人を探せます。
参考文献
L. Hagvall ほか, Contact allergy to citral and its constituents geranial and neral, coupled with reactions to the prehapten and prohapten geraniol, Contact Dermatitis, 82(1), 31–38 (2020). PMID 31566752
A. M. Api & M. Vey, Implementation of the dermal sensitization Quantitative Risk Assessment (QRA) for fragrance ingredients, Regulatory Toxicology and Pharmacology, 52(1), 53–61 (2008). PMID 18635300