原料図鑑 · 129
原料図鑑:メース油 —— ナツメグと同じ種子の、外側の赤い網
· 9 分
CAS 8007-12-3、サプライヤー34社。この記録の別名欄は別名ではなく、一文の定義である。「ナツメグの熟した種子を包む乾燥した赤い外皮から水蒸気蒸留して得られる精油。」メースは別の植物ではなく、同じ果実の外側にある赤い網状の仮種皮だ。Ashokkumarらの2022年のレビューは4つの組織の精油収率を並べており、メースの8.1〜10.3%は最も高く、幅も最も狭い。そして毒性欄にはヒトのデータが1件ある。oral-man TDLo 400 mg/kg、記録された作用は「幻覚、知覚の歪み」、中毒性精神病、不整脈で、出典は1992年の《American Journal of Emergency Medicine》である。Ehrenpreisらの2014年はイリノイ州毒物センターの10年分を振り返り、ナツメグ摂取の報告は32件、うち17件が偶発で、その17件のうち10件は13歳未満だった。
読了目安 4 分。
要点
- 名称:mace oil(メース油)、CAS 8007-12-3、FEMA 2653
- 香調型:spicy;香調:メース、ナツメグ、スイート、スパイシー、ペッパー感、ウッディ、ナッツの薄皮、マスチック、インセンス
- 強度は中(段階2);残香は64時間——このシリーズでは短いほうだ
- サプライヤー:34社
- 比重欄に範囲が2つある:0.880〜0.930 と 0.854〜0.880
- 毒性欄にヒトのデータがある:oral-man TDLo 400 mg/kg、作用は幻覚と不整脈
別名欄に入っているのは一文の定義だ
多くの記録の head_synonym は別の名前である。この記録に入っているのは一文だ。
ナツメグ(Myristica fragrans、ニクズク科)の熟した種子を包む乾燥した赤い外皮から水蒸気蒸留して得られる精油。
**メースは別のスパイスではない。**同じ果実の一部——種子の外側にある鮮やかな赤い網状の仮種皮で、剥がして乾かすと橙褐色になる。
同じ木、同じ果実、2つの商品。(データベースの occurrence 欄は「nutmeg seed」と書いている。出現源まで同じ場所を指している。)
なぜ独立した精油になるのか
Ashokkumar らは2022年、《Phytotherapy Research》でナツメグの木の4つの組織の精油収率をまとめた。
| 部位 | 収率 |
|---|---|
| 葉 | 0.7〜3.2% |
| 仮種皮(メース) | 8.1〜10.3% |
| 種子 | 0.3〜12.5% |
| 仁 | 6.2〜7.6% |
**メースが最も高く、しかも幅が最も狭い。**種子の0.3〜12.5%は広すぎて予測力がほとんど無いが、メースの8.1〜10.3%は生産計画に使える数字だ。
彼らが挙げる主成分はサビネン、オイゲノール、ミリスチシン、カリオフィレン、β-ミルセン、α-ピネンである。サビネンとピネンが香調欄の「ペッパー感」と「ウッディ」を、オイゲノールが「スパイシー」を説明する。
そしてミリスチシンが次の節を説明する。
毒性欄にあるヒトのデータ
toxicity_oral 欄:
oral-rat LD50 3640 mg/kg(Food and Cosmetics Toxicology 第2巻327頁、1964) oral-man TDLo 400 mg/kg——行動:「幻覚、知覚の歪み」;行動:中毒性精神病;心臓:不整脈(伝導の変化を含む)(American Journal of Emergency Medicine 第10巻429頁、1992)
**TDLo は「最低中毒量」であって致死量ではない。**そしてこの man のデータの出所は1つしかない——誰かが摂取し、救急外来に行き、誰かがそれを症例報告に書いた。
以前、全庫でヒトの毒性データを持つ156件を数えた。これはその1件である。
**400 mg/kg は体重60キロの人で24グラム。**ナツメグの実2〜3個ほどにあたる——誤食では届かないが、意図すれば届く量だ。
その症例は実際にはどういうものか
数字は頻度を教えない。Ehrenpreis らは2014年、《Journal of Medical Toxicology》でイリノイ州毒物センターの2001年から2011年までまる10年の記録を振り返った。
ナツメグ摂取の報告は32件。うち17件(53.1%)は非意図的な曝露で、その17件のうち10件(58.8%)は13歳未満だった。13歳未満の曝露のうち4件は眼への曝露である。15件(46.9%)は意図的な曝露で、そのうち5件(33.3%)は他の薬物との併用中毒を伴い、全員が15〜20歳だった。
**10年、州全体で、32件。**しかも過半は偶発で、主に子どもであり、うち4件は目に入れてしまったものだ。
**この2本は並べて初めて意味を持つ。**データベースは用量を1つ与え、論文はその用量が現実世界でどう分布しているかを教える。TDLo 400 mg/kg だけを見ると高リスクな材料に見えるが、Ehrenpreis を読めば、10年で1州32件、その多くは台所での事故だと分かる。
(皮膚の枠は skin-rabbit LD50 > 5000 mg/kg、1979年。急性毒性はこの材料の処方上の問題ではない。)
比重欄に範囲が2つある
specific_gravity 欄:
0.88000〜0.93000 @ 25 °C. | 0.85400〜0.88000 @ 25 °C.
2つの範囲が縦線で区切られており、しかもほとんど重ならない。
データベースはこの2つが何かを示していないが、メース油には商業的に東インド産と西インド産があり、成分の違いはよく知られている。最もありそうな説明は、1つの名前の下に2つの商品が入っているということだ。
実務上の意味:入荷したら比重を測り、どちらを買ったのかを先に確かめる。(1つの名前の下に別のものが入る問題は同じ CAS の下にある記録で測った。バーチタールは別の形——単一の範囲が19%に広がる例だった。)
残香は64時間しかない
odor_substantivity は 64時間 @ 100%、強度は中。
**これは原料図鑑のシリーズでは短いほうだ。**対照:ツリーモス400時間、バーチタール400時間、バニリンはさらに長い。サビネンとピネンは軽いモノテルペンで、速く飛ぶ。
**つまりトップからミドルのスパイスであって、土台ではない。**残るスパイスの基部が欲しいなら、この材料はそれをしてくれない。
使い方
- **トップからミドルのスパイス。**64時間の残香が位置を決めている。
- **香調欄に「インセンス」と「ナッツの薄皮」がある。**クローブやシナモンと違うのはそこだ——それほど甘くない。
- **買う前に産地を確認する。**比重の2つの範囲は写し間違いではない。
- **処方濃度でミリスチシンを心配する必要は無い。**ヒトの症例の量は数十グラムの粉末で、アルコールに落とす量とは桁がいくつも違う。
- **FEMA GRAS(2653)**であり香料庫にも載っている——
flavor欄には香調欄に無い「シトラス」と「リコリス」が加わっている。
この記事が立証していないこと
- **私はこれを嗅いでいない。**全体が欄位、全庫統計、2本の論文である。
- **「2つの比重範囲=東インド産と西インド産」は推論だ。**データベースは示しておらず、供給仕様書で確認してもいない。
- Ashokkumar 2022 はレビュー論文で、収率は他者の数字をまとめたものだ。個々の原典までは追っていない。
- TDLo は欄内の引用文字列を見ただけで、1992年の救急医学誌の原文には当たっていないため、症例の詳細は分からない。
- **Ehrenpreis 2014 が集計したのは「ナツメグ」の摂取であって「メース油」ではない。**両者のミリスチシン含量は異なり、あの32件をこの精油に対応させることはできない。
- この精油に対する IFRA の条文も、ミリスチシン含量の規格も確認していない。
- 「サビネンとピネンは速く飛ぶ」は化学の常識レベルの説明で、この記録から測ったものではない。