原料図鑑 · 98
原料図鑑:タイム油(ホワイトとレッド)—— CAS は一つ、FEMA は二つ
· 10 分
ホワイトタイム油は供給元 55 社、レッドタイム油(スペイン)が 38 社、レッドタイム油(インド)が 18 社で、三件とも CAS 8007-46-3 を共有している。一方 FEMA はホワイトに 3065、レッドに 3064 を与えている。残香欄は条件が同じ(ともに 100% 原液)で数字が 2.1 倍違い、ホワイト 83 時間、レッド 172 時間。外観も違い、ホワイトは無色から淡黄色、レッドは琥珀色から橙赤色になる。タイムには六つの化学型があり、データベースに記録されたチモール含量は 0.2% から 71.84% まで振れる。なおホワイトタイムのレコードの備考欄は別の植物を説明していて、明らかな記録の誤りになっている。
**要点:**ホワイトタイムとレッドタイムはデータベース上、二つのレコード、一つの CAS、二つの FEMA 番号になっている。見て分かる違いは色と残香で、見て分からない違いは化学型になる。
項目
| 項目 | ホワイトタイム油 #39414 | レッドタイム油(スペイン)#39423 |
|---|---|---|
| CAS | 8007-46-3 | 8007-46-3 |
| FEMA | 3065 | 3064 |
| 供給元 | 55 社 | 38 社 |
| 外観 | 無色から淡黄色の澄明な液体 | 琥珀色から橙赤色の澄明な液体 |
| 比重 | 0.915〜0.935 @ 25 °C | 0.915〜0.935 @ 25 °C |
| 屈折率 | 1.495〜1.505 @ 20 °C | 1.495〜1.505 @ 20 °C |
| 引火点 | 55.56 °C | 55.00 °C |
| 水溶解度 | 437.4 mg/L @ 25 °C(推定) | 437.4 mg/L @ 25 °C(推定) |
| 香調タイプ | ハーバル | ハーバル |
| 香調 | タイム、ハーバル、カンファー、メディシナル、フェノリック、テルペン、スパイシー | ハーバル、スパイシー、フェノリック、カンファー、メディシナル、アロマティック、テルペン |
| 強度 | 高。10% 以下で評価(ランク 3) | 高。10% 以下で評価(ランク 3) |
| 残香 | 83 時間(100% 原液) | 172 時間(100% 原液) |
| 規制 | FEMA GRAS | FEMA GRAS |
| 経口毒性 | ラット LD50 2840 mg/kg | 同じ |
| 皮膚毒性 | ウサギ LD50 > 5000 mg/kg | 同じ |
レッドタイム油(インド)#39418 は FEMA、残香、香調がスペインのものと完全に同じで、比重がわずかに低く(0.911〜0.918)、供給元は 18 社になる。
一つの CAS、二つの FEMA
ここ数篇で見てきた登録機関の切り方としては四つ目で、しかも向きが新しい。
これまで:
- アンバー系エーテル:CAS が二つに分かれ、FEMA と欧州評議会が一つにまとめる
- ローズオキサイド:CAS が二つ、FEMA と CoE が一つ、FLAVIS が二つ
- イランイラン:三つの分留が一つの CAS を共有し、五件が一つの FEMA を共有
今回は:CAS がホワイトとレッドを一つ(8007-46-3)にまとめ、FEMA が 3065 と 3064 に分けている。
フォーラムでちょうどこの点に不満を述べていた人がいる。
「goodscents はホワイトタイムとレッドタイムに同じ CAS 番号を与えているが、両者の香りのプロファイルが違うことは誰でも知っている」(imgustavog)
その指摘は正しく、さらにもう一歩進められる。**FEMA は彼に同意している。**書類の上でこの二つを区別したいなら、CAS より FEMA 番号の方が役に立つ。
(このスレッドはローズオキサイドの回で引用した。彼はそこで精油の CAS が当てにならない理由を述べていた。)
残香は 2.1 倍違い、今回は比較できる
ホワイト 83 時間、レッド 172 時間。どちらも 100% 原液での測定になる。
前の二篇では残香欄に続けて足をすくわれた。ローズオキサイドの同じ分子で 8 時間対 388 時間は測定条件が違い、イランイランの 140 対 319 は業界の説明と向きが逆だった。
今回は条件が同じで、向きにも理屈が通る。レッドタイムはフェノール含量が高い側で、フェノール類は単テルペンより沸点が高いから、長く残るのは筋が通る。
残香欄が壊れているのではなく、先に条件を見る必要があるということになる。
色には意味がある
ホワイトは無色から淡黄色、レッドは琥珀色から橙赤色。
レッドタイム油は水蒸気蒸留の初留品で、ホワイトタイム油は再蒸留(rectified)されている。再蒸留は色のついた高沸点成分を取り除き、同時にフェノール類の一部も持ち去る。
それが残香の違いとちょうど対応する。
(データベースに「ホワイトは再蒸留品」と直接は書かれていない。これは外観と残香の二欄からの推論になる。)
六つの化学型
タイムの振れ幅は産地の誤差ではなく、植物学上の型の違いになる。
Thompson らが 2003 年に J Chem Ecol で Thymus vulgaris を調べている。**六つの化学型があり、野外で明確な空間的分離を示す。**単一の型が多数を占める個体群もあるが、二つか三つの型が同居する個体群も多い。
定量的な結果は二つある。
**一、フェノール系の型(チモール、カルバクロール)の油では、主要モノテルペンの割合が非フェノール系(ゲラニオール、α-テルピネオール、リナロール)より有意に低い。**フェノール系の油には前駆体(γ-テルピネンとパラシメン)が大量に含まれるためになる。
二、ある化学型が多数型でない地点では、その型の主要モノテルペンの百分率が有意に低下する。
つまり組成は、どの型かだけでなく採取地点の個体群構成にも左右される。
データベースの数字もこれと整合する。全庫の「天然での存在」欄を走査すると、タイム油に記録された含量範囲はこうなる。
| 分子 | 産地数 | 範囲 | 倍率 |
|---|---|---|---|
| チモール | 9 | 0.2% – 71.84% | 359 倍 |
| ミルセン | 9 | 0.06% – 39.1% | 652 倍 |
| ゲラニオール | 6 | 0.04% – 11.8% | 295 倍 |
| 酢酸ゲラニル | 5 | 0.09% – 25.0% | 278 倍 |
| α-ピネン | 9 | 0.01% – 2.28% | 228 倍 |
(これらは文献の報告値の範囲であって、同一ロットの反復測定ではない。方法と限界は〈天然原料はどれだけ振れるのか〉に書いた。)
備考欄に明らかな誤りがある
ホワイトタイム油のレコードの head_synonym は white thymus vulgaris oil で、問題ない。
ところが同じレコードの備考欄はこう書いている。
「インドの Ptychotis Ajowan の果実から得られる……現地では香辛料として使われ、蒸留して Oman water として売られることもある。アジョワン油は……」
**それはアジョワンであって、タイムではない。**どちらもチモールを多く含むので、記録の際に二つの資料が混ざったのだろう。
レッドタイムの二件の備考欄は正しい。「レッドタイム油は野生の Thymus Vulgaris を部分乾燥させたものから水と蒸気で蒸留される」となっている。
買うときに影響はない。誤っているのは規格ではなく説明だからだ。ただしこの欄を資料として使うと、別の植物に連れて行かれる。
買い方
- **ホワイトとレッドは二つの材料であって、二つの等級ではない。**レッドは初留でフェノールが高く残香が長く色が濃い。ホワイトは再蒸留で、より清潔で残香が短い。
- **CAS では区別できず、FEMA ではできる。**3064 がレッド、3065 がホワイトになる。
- **チモール含量を指定したいなら売り手に聞くか COA を見る。**同じ名前の下で、文献に記録された範囲は 0.2% から 71.84% になる。
- **化学型は別途尋ねる。**リナロール型のタイムとチモール型のタイムはまったく別物で、どちらも thyme oil と呼ばれる。
- どちらも 10% 以下で評価する。
- フェノール類を含むので使用量は控えめに。(IFRA の制限値は調べていない。)
この記事が立証していないこと
- **どちらも嗅いでいない。**全編がデータベースの項目と論文一本による。
- 「ホワイトは再蒸留品」は外観と残香からの推論で、データベースには書かれていない。
- **レッドのフェノールが高いというのも推論。**この二件それぞれの成分百分率はデータベースにない。あるのは全庫レベルの範囲だけになる。
- **残香 83 対 172 時間は条件が同じ(ともに 100% 原液)ことまでしか確認していない。**同じ手法かどうかは分からない。
- 含量範囲は文献の報告値で、産地も年も分析法も混ざっている。同一ロットの反復測定でもなければ、三本続けて買ったときに出会う範囲でもない。
- Thompson 2003 は南フランスの野生個体群で、商業栽培ではない。
- **備考欄の誤りは、内容がアジョワンの記述であることまでしか確認していない。**元の資料の誤りか取り込み時の誤りかは判断できない。
- **IFRA の制限は調べていない。**タイム油はフェノール類を含むので実務上の制限値があるはずだが、このデータベースの項目にはない。
- **コーパスの統計は取っていない。**954 件の処方コーパスでの出現率は調べていない。