原料図鑑 · 36
原料図鑑:トンカビーンズ(tonka bean)——クマリンの故郷、キャラメルと干し草の甘さ
· 9 分
CAS 8046-22-8、Dipteryx odorata の豆のアブソリュート。甘く、温かく、クマリン様で、ナッツとキャラメルの気配。クマリンという言葉自体が、この豆のトゥピ語名 kumarú に由来する(通説)。40 社、深褐色の固体、持続時間 400 時間、データベースには 10% 以下での評価推奨が明記されている。2022 年の文献二篇:Dipteryx 属の部位比較の初例とアマゾンの採集経済、そして茹でるより焙煎が良いという食品応用研究。
クマリンの回では「刈りたての干し草」の分子を話しました。今回はその故郷を訪ねます。トンカビーンズは南米の樹 Dipteryx odorata の種子。黒く艶があり、しわが寄っていて、キャラメルとアーモンドと干し草を折り重ねた甘い匂いがします。語源の通説では、クマリン(coumarin)という言葉自体がこの樹のトゥピ語名 kumarú がフランス語の coumarou を経て生まれたもの。豆が先で、分子の名前が後です。
先に要点
- トンカのアブソリュートは温かく甘い天然ベース。クマリン様、ナッツ、キャラメル。持続時間 400 時間(原液測定、目盛り上限)、40 社。データベースに 10% 以下での評価推奨が明記されており、深褐色の固体は使う前に下処理が要ります。
- クマリンの天然の故郷のひとつですが、豆の価値は一分子だけではありません。2022 年の研究は Dipteryx 属の部位比較を初めて行い、殻と内果皮からのクマリン取得も評価しました。
- 豆の表面に白い霜が付くことがあります。通説ではクマリンの結晶が析出したもので、成分の濃い古い豆によくある姿。カビではありません。
基本データ
| CAS | 8046-22-8 |
| 由来 | Dipteryx odorata(トンカ)種子のアブソリュート、天然物 |
| 香調 | 甘い、温かい、クマリン様、ナッツ、キャラメル |
| 香調分類 | tonka |
| 強度 | 中(データベース注記:10% 以下で評価推奨) |
| 持続時間 | 400 時間(原液 100% で測定、ムエット) |
| 外観 | 深褐色の固体 |
| 引火点 | 100 °C |
| 推奨保存 | 24 ヶ月以上(冷暗所・密封) |
| 法規リスト | GRAS、JECFA、IFRA |
ここでの 400 時間はデータ元の目盛りの上限(バニリンの回で説明済み)で、原液での測定。「10% 以下で評価」の一行がデータベースの欄に直接書かれているのは珍しく、そのまま従えば十分です。固体アブソリュートの扱いはオークモスと同じ要領:湯煎で柔らかくし、先に希釈液を作り、染色を見込むこと。
豆の故郷とその経済
2022 年、Sousa らは《Molecules》で、この豆を産地の視点から書きました:
Dipteryx odorata と Dipteryx punctata はアマゾンの原生種であり、採集者がクマリンを得るために取引している。⋯⋯D. odorata の種子抽出物、および D. punctata の殻、内果皮、種子において、我々は 1,2-ベンゾピロンを同定した。D. odorata の内果皮抽出物と D. punctata の種子抽出物は、評価した植物病原真菌の菌糸成長に最大の減少をもたらし、代替防除としての有望性を示した。⋯⋯本研究は Dipteryx 属の種の異なる部位を比較した最初の研究であり、D. punctata 果実の殻と内果皮からのクマリン取得を評価した。
1,2-ベンゾピロンはクマリンの別の化学名です。見どころは二つ。第一に「採集者が取引」という言葉。トンカは今もアマゾンの採集経済の一部で、雨林に生える樹から豆を拾うことが収入になります。第二に、殻と内果皮からのクマリン取得を評価したこと。私たちの解釈では、原料側から見た資源利用効率の題目です。抗真菌の一文は論文自身の「有望性」という保留をそのまま残しています。農業防除方向の初期結果で、香水とは別の話です。
食品研究は食用許可ではない
トンカの栄養と調理を調べた研究はありますが、食品中のクマリンとトンカに関する規則は国ごとに大きく異なります。食品科学論文は台所での許可証ではありません。香料とフレーバー名簿の境界は「香水原料の半分は食品用途にも登録されている」へ。
カタログの家族
| 品目 | 何か |
|---|---|
| tonka bean absolute(40 社) | 本体:豆のアブソリュート、深褐色の固体 |
| tonka ketone(10 社) | トンカ方向の合成単一分子のひとつ |
| tonka bean resinoid(9 社) | 樹脂状の溶剤抽出版 |
| tonka undecanone(9 社) | もうひとつの合成単一分子。336 時間(上限でない実測値) |
| tonka bean oil(1 社) | 珍しいオイル状の版 |
クマリン(74 社)と並べて見ると、合成分子の取扱社数は天然アブソリュートのほぼ二倍。それでも固体の天然アブソリュートで 40 社は立派な市場の票です。「クマリン以外の部分」——ナッツ、キャラメル、タバコ寄りの脇役たち——が欲しいときに、豆の側を買います。
嗅ぐときは
- 私たちの鼻には、希釈したアブソリュートの立ち上がりはアーモンドとキャラメル、中盤は干し草、最後にタバコとカカオのほろ苦い甘さが残ります。純粋なクマリンよりずっと厚く、その厚みが価格差の中身です。
- クマリンと並べて嗅ぐのは良い一課です。単一分子はクリーンで直接的、アブソリュートは丸く複雑。処方では両方を一緒に使うこともよくあります。
- 丸ごとの豆を砕いて嗅ぐとまた別物で、青くて生の豆の気配。私たちは砂糖の瓶に豆を一粒入れて試したことがあり、一週間後には瓶ごとトンカの香りになっていました。
法規
GRAS、JECFA、IFRA に収載。例によって、リストに上限値は含まれません。肌でも食品でも、規則はクマリンそのものを軸に回っており、クマリンの回の法規の節で書きました。ここでは実務の動作だけ:アブソリュートのクマリン含量データをサプライヤーに求め、肌に載せる前に現行の IFRA Standards と規格書を確認してください。
買い方
- まず欲しいものをはっきりさせること。干し草の甘さだけなら単一分子のクマリンのほうがずっと安く、豆の脇役一式が欲しいときにアブソリュートを買います。
- 固体アブソリュートは湯煎で柔らかくし、10% 以下の希釈液に(データベース自身の推奨)。染色も見込んで。
- 丸ごとの豆はスパイス店でも買えて、砕けば良い嗅覚教材になります。ただし食品に使う前に現地の法規を。
→ データベースのトンカビーンズ・アブソリュート:物性の全データ、サプライヤー一覧、推奨の組み合わせ。 → クマリン|香りで検索:「甘い 干し草 キャラメル」で近縁の原料が見つかります。
参考文献
B. C. M. Sousa, S. P. Castro, K. A. Lourido, A. A. M. Kasper, G. D. S. Paulino, C. Delarmelina, M. C. T. Duarte, A. Sartoratto, T. A. Vieira, D. C. Lustosa & L. E. S. Barata, Identification of Coumarins and Antimicrobial Potential of Ethanolic Extracts of Dipteryx odorata and Dipteryx punctata, Molecules, 27(18), 5837 (2022). PMID 36144574
D. S. Kim & F. Iida, Nutritional Composition of Tonka Bean (Dipteryx odorata) and Its Application as an Elder-Friendly Food with Gelling Agent, Gels, 8(11), 704 (2022). PMID 36354612