はじめての調香 · 36
秤が処方の本数を決める —— 30 mgの秤では、17本中14本が量れない
· 17 分
最初の香水を作ろうとしている人が「秤の最小表示が30 mgだが足りるか」と聞いた。これは計算できる。20 gバッチで1%の秤量精度を求めるなら、17本の処方のうち14本が届かない。5%まで緩めてもまだ10本が届かない。1 mgの秤に替えれば14本が1本になる。954件の公開処方では、素材項目の24.6%が1%未満、中央値の処方には3%未満の素材が7本ある。希釈は上級テクニックではなく、秤が強いてくるものになる。そして希釈自体にも誤差が積み上がる。
最初の香水を作ろうとしている人が、装備リストと処方を出して4つ質問した。3つ目がこの記事の主題になる。
「私の秤(30 mg分解能)で足りますか。 理想からは程遠いのは分かっていますが、学ぶには十分でしょうか、それとも問題が多すぎるでしょうか」
これは計算でき、答えは具体的になる。
先に結論
- 秤量の経験則はこうなる。1%の精度が欲しければ、1回に量る量は最小表示の100倍以上。30 mgの秤なら毎回3 g以上になる。
- 彼の処方は 20 gバッチ、17素材。うち14本が3 gに届かない。 つまり17本中14本は1%精度で量れない。
- 5%精度(最小表示の20倍=600 mg)まで緩めても、まだ10本が届かない。
- 極端なのはシナモンバーク油で、0.2%=40 mg。目盛にして1.3個分になる。
- 1 mgの秤に替えると、同じ処方・同じバッチで、1%精度に届かない素材が14本から1本になる。 その秤はネットで20ドル以下だ。
- しかもバッチが小さいほど悪化する。 フォーラムは1 gの試作を勧めたが、30 mgの秤では1 gバッチで17本全部が量れない。
- これは彼の処方が特殊なのではない。954件の公開処方で、素材項目の24.6%が1%未満、51.3%が3%未満。中央値の処方には3%未満が7本ある。
- だから希釈は上級テクニックではなく、秤が強いてくるものになる。 そして代償がある。段階希釈は誤差の伝播を起こしやすい(Wallingら2011)。
読了9分ほど。
その規則とは
電子秤の仕様には、混同されやすい数字が2つある。
- 最小表示(readability, d):表示される最小の刻み。彼のは 30 mg。
- 量れる最小量:これは仕様の数字ではなく、欲しい精度から自分で計算するものになる。
よく使われる経験則:
| 欲しい相対精度 | 1回の最小秤量 |
|---|---|
| 1% | 100 × d |
| 5% | 20 × d |
理屈は単純だ。 最小の刻みが30 mgなら、1回の読みの不確かさは少なくともその桁になる。3 gを量れば30 mgは1%、300 mgなら10%、40 mgなら**30 mgは75%**になる。
(はっきりさせておくと、100×dは経験則であって規制ではない。実際の最小秤量は繰返し性と直線性、そして置き場所の気流・振動・温度にも依存する。限界は末尾に書いた。)
彼の処方を1行ずつ
20 gバッチ、30 mgの秤。「目盛数」は重量を30 mgで割った値になる。
| 素材 | 使用量 | 重量 | 目盛数 | |
|---|---|---|---|---|
| ✓ | Ambrox Super | 24.0% | 4,800 mg | 160.0 |
| ✓ | Hedione HC | 20.0% | 4,000 mg | 133.3 |
| ✓ | ベルガモットFCF | 19.0% | 3,800 mg | 126.7 |
| △ | ジヒドロ-β-イオノン | 8.0% | 1,600 mg | 53.3 |
| △ | レモン油FCF | 6.0% | 1,200 mg | 40.0 |
| △ | アンブレットライド | 5.0% | 1,000 mg | 33.3 |
| △ | Lyfral | 3.6% | 720 mg | 24.0 |
| ✗ | スイートオレンジ油 | 2.5% | 500 mg | 16.7 |
| ✗ | Muscenone Delta | 2.2% | 440 mg | 14.7 |
| ✗ | Exaltenone | 2.2% | 440 mg | 14.7 |
| ✗ | グアイアックウッド油 | 1.5% | 300 mg | 10.0 |
| ✗ | ジンジャーCO₂ | 1.5% | 300 mg | 10.0 |
| ✗ | ブラックティー調 | 1.5% | 300 mg | 10.0 |
| ✗ | Muscone Laevo | 1.0% | 200 mg | 6.7 |
| ✗ | ネロリ調 | 1.0% | 200 mg | 6.7 |
| ✗ | フランキンセンス油 | 0.8% | 160 mg | 5.3 |
| ✗ | シナモンバーク油 | 0.2% | 40 mg | 1.3 |
✓=100目盛超(1%精度):3本。 △=20〜100目盛(5%精度):4本。 ✗=20目盛未満:10本。
17本のうち、きちんと量れるのは3本になる。
シナモンの行は取り出す価値がある。40 mgは1.3目盛だ。 あの秤は30 mgか60 mgしか表示しない。入れたい40 mgはその上に存在しない。
スレッドの返信は同じ計算をして、正しい対処も出している。
「20gは、とくに最初の試作としては大きすぎる。希釈を使って1gでやるといい。……たとえばシナモンバークは2mg必要になる。5%希釈を作って40mg(3〜4滴くらい)使うか、2%希釈で100mg使う。……0.03gの秤では足りない。」
この人の計算は正しい。
秤を替えると数字はどう動くか
同じ処方、同じ20 gバッチ、秤だけを替える。
| 秤 | 1%に必要 | 届かない素材 | 5%に必要 | 届かない素材 |
|---|---|---|---|---|
| 30 mg | 3,000 mg | 14 / 17 | 600 mg | 10 / 17 |
| 1 mg | 100 mg | 1 / 17 | 20 mg | 0 / 17 |
14本が1本になる。
残る1本はシナモンバーク油の40 mgで、1 mgの秤なら40目盛、5%精度の帯に十分収まる。 最初の香水としてはまったく問題ない。
スレッドで値段まで書いた人がいる。
「Amazonで0.001gの秤が20ドル以下で買える。0.03gの秤では足りない。」
この記事でいちばん実務的な一文になる。 17本目の素材を買う前に、その秤を買う。
バッチが小さいほど悪化する
直感に反するし、フォーラムの助言と彼の秤を衝突させる。
同じ30 mgの秤で、バッチを変える。
| バッチ | 1%に届かない | 5%に届かない |
|---|---|---|
| 20 g | 14 / 17 | 10 / 17 |
| 10 g | 17 / 17 | 12 / 17 |
| 5 g | 17 / 17 | 14 / 17 |
| 1 g | 17 / 17 | 17 / 17 |
1 gバッチでは、あの秤は1本も量れない。
だから「小さいバッチで作る」と「安い秤を使う」は両立しない。 小さいバッチは正しい助言で(試作は小さくあるべきだ)、それはより良い秤か、より多くの希釈を要求する。
彼の処方が特殊なのではない
954件の公開処方の使用量を広げてみる。 溶剤を除くと、素材項目は16,977件になる。
| 使用量 | 件数 | 割合 |
|---|---|---|
| 10%未満 | 13,897 | 81.9% |
| 5%未満 | 10,965 | 64.6% |
| 3%未満 | 8,703 | 51.3% |
| 1%未満 | 4,184 | 24.6% |
| 0.5%未満 | 2,204 | 13.0% |
| 0.1%未満 | 218 | 1.3% |
素材項目の半分以上が3%未満、4分の1が1%未満になる。
中央値の処方はこうなる。
| しきい値 | 中央値の処方でそれ未満の素材数 |
|---|---|
| 5%未満 | 10本 |
| 3%未満 | 7本 |
| 1%未満 | 2本 |
典型的な処方には、3%未満で使う素材が7本ある。
20 gバッチなら3%は600 mg。 30 mgの秤では20目盛で、ちょうど5%精度の境界に乗る。
言い換えると、普通の処方を作っているかぎり、これに繰り返しぶつかることになる。
だから希釈は選択肢ではない
この記事で持ち帰ってほしいのはここになる。
希釈を「上級テクニック」や「嗅ぎやすくするための工夫」と考える人は多い。 上の算数は、それが秤の物理的限界が強いてくる必要な工程であることを言っている。
便利だから薄めるのではない。量れないから薄める。
やり方は直接的だ。
- 0.2%で入れる素材は、20 gバッチで40 mgになる。
- 10%の希釈液を作れば、その40 mgは400 mgの溶液になる。1 mgの秤で400目盛、30 mgの秤で13目盛。
- 1%の希釈液なら4,000 mgで、30 mgの秤でも足りる。
代償は溶剤が最終製品に入ることになる。 スレッドで指摘されている。
「可能なときはアルコールで希釈すること。最終結果にTECやDPGが入りすぎないように」
それは正しく、制約は本物だ。 5本の素材をそれぞれDPGの10%溶液として入れれば、そのDPGは積み上がる。
ただし希釈にも誤差がある
勧める前に代償を書いておく。
Wallingらが2011年に Journal of Laboratory Automation で扱ったのは創薬スクリーニングにおける段階希釈の品質管理で、問題設定が明快になる。
一般に、段階希釈法は誤差の伝播を起こしやすい。各希釈が直前の濃度に依存するからである。
だから希釈の連鎖が長いほど誤差は大きくなる。
実務では:
- 1段でできるなら2段にしない。 原体から直接1%を作るほうが、10%を経由するより良い。ただし最初の1段が量れないなら別になる(ジメチルスルフィドのような場合)。
- どの瓶が何かをラベルに書く。 前回の人は「希釈の希釈」につまずいた。
- 希釈液は滴数ではなく秤で量る。 スレッドの「40mg(3〜4滴くらい)」は実用的な換算だが、滴の大きさは粘度とピペットの口径で変わる。
専門家も間違える
最後の節は期待の位置を合わせるためにある。
Shahらは2013年に World Journal of Gastroenterology で直接的なことをした。2%ジルチアゼムクリームの処方箋12枚を、調剤サービスを公に提供する12軒の小売薬局で調剤させ、各2回まで追加調剤を認めて36製剤を得て、HPLCで含量を測ったのだ。
米国薬局方の力価基準は表示量の90〜115%になる。
結果:
36製剤のうち、5件(13.89%)が力価過剰で表示量の117.2〜128.5%、13件(36.11%)が力価不足で34.8%〜89.8%だった。 14件(38.9%)が米国薬局方の含量均一性基準を満たさなかった。 **12軒中9軒(75%)**が、3回の調剤の少なくとも1回で力価または含量均一性の規格を外した。
最低は表示量の34.8%、3分の1になる。
免許と設備と訓練を持つ専門家の話だ。
この対比の限界も書いておく。 クリームの問題は秤量だけでなく混合と均一性にもあるし、これは米国の小売薬局であって香水ではない。引いているのは「調香でも同じことが起きる」と言うためではなく、小規模な手作業の調製における含量誤差が、測定されていて小さくない問題だと示すためになる。
公表された基準に従って働く専門家がこの割合で外すなら、30 mgの秤で17本の処方を量っている初心者が作っているものは、書き留めた処方とは別物になる。
それは良いものが作れないという意味ではない。 意味するのは、再現できないということだ。
最小の装備リスト
スレッドの3人の助言をまとめ、算数が実際に要求する項目に印をつける。
いま買う:
- 0.001 g(1 mg)の秤、ひょう量50〜100 g。算数が要求するのはこれだけになる。
- 小さいガラス瓶:希釈用に1〜4 mLをまとめて、15 mLを数本、30 mLを2本ほど。
- 使い捨てピペット。 0.2 mLのものを特に勧めた人がいる。
- アルコール:SDA 40B 95%以上。(投稿者は96.4%の飲用Weingeistを持っている。度数は問題なく、飲用と香水用の違いは変性剤とそれに伴う規制にあるが、そこは確認していない。)
- ムエット。 試料をすくうのにも使えると書いた人がいる。
- ラベルとノート。
役に立つが後でよい:
- ガラスピペット(洗って再利用できる)
- イソプロピルアルコール(洗浄と脱臭)
- ステンレスのトレー。「必ず何かをひっくり返す」と書いた人がいて、トレーは少なくともそれを受け止める
- 遮光瓶(光の当たる場所に置くなら)
今回は不要:
- ビーカー、ガラス棒、じょうご、シリンジ。1〜20 gでビーカーはいらない。
この記事が示していないこと
100×dと20×dは実験室の経験則であって規制ではない。 出典によって数字が違う(50×dを使うものもある)し、実際の最小秤量は繰返し性、直線性、気流、振動にも依存する。 問題を数量化するために使ったのであって、それが標準だからではない。
彼の秤について分かっているのは「0.03 g / 30 mg分解能」の一言だけになる。 これを最小表示として扱った。繰返し性や表示された最小秤量なら数字は変わる。
処方は投稿者が書いたままで、出どころは検証していない。 百分率はAIによるものかと聞いた人がいて、投稿者は答えていない。
処方群の使用量分布は溶剤を含まないし、処方群の百分率はコンセントレート中の比率になる。彼の20 gの「オイル」と同じ層なので比較は成り立つ。
Shahの研究はクリームであって香水ではない。 クリームの含量均一性は混合と相分離に大きく依存し、それは秤量誤差ではない。 2013年の米国小売薬局の状況になる。引いているのは「小規模な手作業の調製の含量誤差は測定されていて小さくない」という一般的な事実のためだ。
Wallingの論文はDMSO系の自動希釈の品質管理で、96および384ウェルプレートと蛍光色素を使っている。引いたのは段階希釈の誤差伝播についての記述だけで、これは一般的な言及であって彼らの実験結果ではない。
アルコールの点は確認していない。 飲用の蒸留酒と変性した香水用アルコールの違い(変性剤、酒税、規制)は国で変わる。ドイツの規定は調べていない。
処方の香りについては何も述べていない。 コメント主は処方への助言(ブラックティーが高い、シナモンが高い、ExaltenoneをExaltoneに)を出しているが、それは彼らの判断で、こちらに評価する力はない。
参考文献
M. Shah, L. Sandler, V. Rai, C. Sharma, L. Raghavan, Quality of compounded topical 2% diltiazem hydrochloride formulations for anal fissure, World Journal of Gastroenterology, 19(34), 5645-5650 (2013). PMID 24039356. doi:10.3748/wjg.v19.i34.5645
L. A. Walling, N. R. Peters, E. J. Horn, R. W. King, An inline QC method for determining serial dilution performance of DMSO-based systems, Journal of Laboratory Automation, 16(3), 216-221 (2011). PMID 21609707. doi:10.1016/j.jala.2011.01.001