原料図鑑 · 125
原料図鑑:ビターアーモンド油 —— 純度欄は空、分子式は「未指定」、そしてサプライヤーの表示は「ベンズアルデヒド >95%」
· 9 分
CAS 8013-76-1、サプライヤー37社、FEMA 2046。assay 欄は完全に空白、formula 欄は unspecified、そしてサプライヤー項目には「ビターアーモンド精油 モロッコ ベンズアルデヒド(>95%)」とある——つまりこの油の95%以上は、同じ庫に108社を持つ単体だ。残香は「3時間未満」、保存期限は12か月しかない(多くの材料は24)、強度ランク3。経口毒性欄には oral-human LDLo 107 mg/kg があり、全庫156件のヒトデータの中でも最も低い部類だ。そして Jaswal 2018 の総説が肝心の機構をくれる——静脈投与ではシアン化水素が生じず、腸内細菌のβ-グルコシダーゼがアミグダリンを加水分解して初めて生じる。毒性は経路で決まる。
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要点
- 名称:bitter almond oil(ビターアーモンド油)、Prunus amygdalus amara、CAS 8013-76-1
formula:unspecified(未指定);assay:空白- 香調タイプ:fruity;香調:フルーティ、ビターアーモンド、チェリー、マラスキーノチェリー、スイート、パウダリー
- 強度:高(10% 以下で評価推奨)、ランク3
- 残香:「3時間未満」;保存期限は12か月しかない
- サプライヤー:37社;FEMA 2046
- 経口ヒト LDLo 107 mg/kg;経皮ウサギ LD50 1220 mg/kg
2つの空欄
多くの記録は少なくとも分子式と純度を教えてくれる。この記録はどちらも無い。
formula:unspecified
assay:(空白)
「unspecified」は全庫で295件現れる——単一化合物でないものに与えられる値だ。天然抽出物にはもともと単一の分子式が無いので、これは筋が通る。
純度欄が空白なのも珍しくない:サプライヤー10社以上の3,156本のうち、**1,065本(33.7%)の純度欄が空だ。**天然物の側では一般的である。
だがこの1本の事情は特別だ。実質的にほぼ単体だからだ。
サプライヤー自身が純度を書いている
solubility 欄が収めるサプライヤー項目に2つある。
Advanced Biotech;BITTER ALMOND OIL NATURAL 98% min. 匂い:チェリーアーモンド
Albert Vieille;ビターアーモンド精油 モロッコ ベンズアルデヒド(>95%) 匂い:非常にアーモンドで甘いバルサミック
「ベンズアルデヒド >95%」。
そしてベンズアルデヒドは同じデータベースの独立した記録だ——CAS 100-52-7、サプライヤー108社、純度欄 98.00 から 100.00。
つまり同じ匂いに2つの記録がある。一方は分子式があり純度規格があり108社、他方は分子式が「未指定」で純度欄が空白、37社。
規格がどこに書かれるかは、あなたが買うのが「油」か「分子」かで決まる。
(パイン油とは逆の形だ。あれは等級が商品名に入っていた。こちらは規格がそもそも欄に入らず、サプライヤーの文章にしか残っていない。)
匂いより速く飛ぶ
| 強度 | 高(ランク3) |
| 残香 | 3時間未満 |
| 保存期限 | 12か月 |
ランク3と3時間未満の残香は急峻な組み合わせだ。最初は強く、すぐ消える。
**12か月の保存期限はこの連載では短いほうだ。**多くは24か月と書く。ベンズアルデヒドは酸化して安息香酸になりやすく(それは結晶化する)、短い保存期限には理由がある。
ここでも「<」が数値欄に落とされている——元の文字列は「< 3 hour(s) at 100.00 %」で、数値欄には 3.0 が残る。収集した限定詞の喪失としては6例目だ。
そのヒトのデータと、それが誤飲専用である理由
toxicity_oral 欄には3件あり、3件目がヒトのものだ。
経口ラット LD50 960 mg/kg(1979)
経口ラット LD50 > 1490 µL/kg(1979)
経口ヒト LDLo 107 mg/kg(Food and Cosmetics Toxicology, 1979)
107 mg/kg は私がまとめた156件のヒト毒性データの中でも最も低い部類だ(対照:サリチル酸メチル355、パイン油4700)。
そしてこの数字が低いことには具体的な化学的理由があり、その理由は飲み込んだときにしか成立しない。
Jaswal らは2018年に《Biochemistry and Biophysics Reports》でアミグダリンを総説し、機構を明確にしている。アミグダリンはシアン配糖体で、シアン化水素、ベンズアルデヒド、グルコースに加水分解される——ビターアーモンドのアーモンド香とその毒性は同じ反応から来る。(その反応自体はベンズアルデヒドの記事で書いた。)
**肝心なのは誰がその加水分解をするかだ。**総説の記述はこうなっている。
さまざまな用量と投与経路を用いた in vitro・in vivo 研究は、シアン化水素の生成を示さなかった静脈投与の研究を含めて、摂取による一般的な中毒における腸内細菌叢の役割を指し示している。腸内の嫌気性バクテロイデス門は、アミグダリンのシアン化水素への加水分解に必要な高いβ-グルコシダーゼ活性を持つ。
静脈注射ではシアン化水素が生じない。飲み込んだときに生じる。腸内細菌がその一歩をやるからだ。
調香師にとっての意味は直接的だ:あの 107 mg/kg は腸内細菌の関与を必要とする数字であり、皮膚にはその系が無い。いかなる皮膚の用量にも換算できない——一般版は〈毒性欄が答えているのはあなたの問いではない〉に書いたが、ここには具体的な機構がある。
**ただし2つ明確にしておく。**商業用のビターアーモンド油には「シアン化水素除去(FFPA)」の規格があるが、このデータベースの欄はそれを記録していない。そして経皮ウサギ LD50 1220 mg/kg はこのデータベースでは低いほうだ(多くは > 5000)ので、「経路が違う」は「皮膚では無害」ではない。
匂いはアーモンドだけではない
香調欄には6語あり、うち2つはチェリーだ。
フルーティ、ビターアーモンド、チェリー、マラスキーノチェリー、スイート、パウダリー
Mosciano の記述はもっと精確だ。
チェリーの種、甘くフルーティでパウダリーな背景を伴う
**「チェリーの種」がこの材料の鍵語だ。**アーモンド、サクランボの種、桃の核、アンズの核——どれもバラ科の種で、同じシアン配糖体の化学を共有しているので、匂いの方向も共有している。
風味欄にはさらにクリーミー、トロピカルフルーツ、ラム感、スパイシーが加わり、20 ppm で評価される。
使い方
- **10% 以下で評価する。**ランク3だ。
- **トップノートで、しかも極端に短い。**残香3時間未満。何かを残すことは期待しない。
- **買うときは純度と FFPA を訊く。**データベースの欄は教えてくれない。サプライヤーの規格書が教えてくれる。
- **安定性と規格化が欲しければベンズアルデヒドを買う。**108社、純度98–100、分子式あり。
- **保存期限12か月なので小瓶で買う。**遮光、密閉、冷暗所。
- チェリーの種という方向は意図的に使える——チェリー、桃、アンズという核果の線全体につながる。
この記事が立証していないこと
- **嗅いだことはない。**全文が欄と全庫統計と論文1本でできている。
- 「>95% ベンズアルデヒド」は1社の製品表示であって、この油の一般則ではない。産地と製法で比率は変わる。
- **Jaswal らの総説の主題はアミグダリンの代替療法としての論争だ。**引用したのは加水分解の機構と投与経路の記述だけで、その有効性の議論はまったく扱っていない。
- **あの総説が扱うのはアミグダリンであってビターアーモンド油ではない。**油は蒸留産物、配糖体は種子中の前駆物質で、同じものではない——誤飲のデータを外挿できない理由の説明に使っているのであって、この油の組成の話ではない。
- FFPA(シアン化水素除去)規格はこのデータベースに記録が無く、各地の規制がそれを要求しているかも調べていない。
- 経皮ウサギ LD50 1220 mg/kg は1979年のデータで、しかも経皮の急性致死量は感作性と刺激性の問いに答えない。
- この油に対する現行の IFRA スタンダードの条文は確認していない。