原料図鑑 · 126
原料図鑑:カンファー —— 香調欄に語が1つしかなく、その語が自分の名前だ
· 10 分
CAS 76-22-2、サプライヤー66社、FEMA 4513。香調タイプは camphoreous、香調欄は camphoreous、風味欄も camphoreous、味の記述も camphoreous——4つの欄に1語、そしてその語はこの材料の名前そのものだ。強度欄も残香欄も無い。cosmetic_uses には変性剤、香料、可塑剤の3用途が並ぶ。そしてこれは3つの毒性経路すべてにデータがある数少ない材料だ——経口、皮下、そして記録の6.6%にしか無い吸入。Xu 2005 は《J Neurosci》で、カンファーが TRPV1 を活性化し強く脱感作させること、しかもカプサイシンとは違う部位で作用することを示した。それが外用鎮痛剤としての機構だ。
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要点
- 名称:(±)-camphor(カンファー/DL-カンファー)、CAS 76-22-2、C10H16O
- FEMA 4513、CoE 140;純度 96.00 から 100.00
- 香調タイプ camphoreous、香調 camphoreous、風味 camphoreous、味 camphoreous
- 強度欄も残香欄も無い
- 融点 176–177 °C、白色結晶固体;蒸気圧 0.65 mmHg(固体としては高い)
cosmetic_uses:denaturants;fragrance;plasticisers- サプライヤー:66社
- 3つの毒性経路すべてにデータがあり、記録の6.6%にしか無い吸入を含む
4つの欄に1語
この記録には他で見たことのないことが1つある。
| 欄 | 内容 |
|---|---|
odor_type |
camphoreous |
odor |
camphoreous |
flavor_type |
camphoreous |
flavor |
camphoreous |
taste_descriptions |
camphoreous |
5つの欄、同じ1語、そしてその語はこの材料の名前だ。
**これはデータの欠落ではなく、特殊な完全性だ。**カンファーはその香調族を定義する側にいる——「カンファー感」という記述語の意味は「カンファーのような匂い」である。自分を別の語で記述できないのは、他のものが自分を使って記述されているからだ。
(対照としてネロリドールの香調欄は5語、アンゼリカルート油は11語ある。)
**そして強度欄も残香欄も無い。**この連載ではその2欄はほぼ毎回埋まっている——残香欄の天井も強度ランクの分布も測ってきた。この1本は両方とも空だ。
3つの用途のうち2つは香水ではない
cosmetic_uses 欄。
denaturants(変性剤);fragrance;plasticisers(可塑剤)
変性剤はサリチル酸メチルで出てきた——アルコールに加えて飲めなくするものだ。カンファーもその1つである。
**可塑剤は新しい。**カンファーは歴史的にセルロイドの可塑剤であり、それが最初期の大規模工業用途の1つだった。
つまりこの材料の3つの「化粧品用途」のうち、匂いに関わるのは1つだけだ。
Vicks の換算が載っている
formulations 欄に、このデータベースでは珍しい具体的な換算がある。
Vicks VapoRub 20グラム、Campho-Phenique 10ミリリットル、Vicks VapoSteam 16ミリリットルは、それぞれ約1グラムのカンファーを含む。
**市販製品を材料の重量に換算した記述だ。**多くの記録の formulations 欄は等級(technical、USP)を書くが、この記録は消費者が照合できるものを書いている。
薬用製剤も並ぶ。カンファーチンキ(アルコール中10%)など。
3経路すべてにデータがある数少ない材料
前回3つの毒性欄のカバー率を測った。サプライヤー10社以上で経口51.7%、皮膚31.2%、吸入は6.6%しかない。
カンファーは3つとも持っている。
| 経路 | データ |
|---|---|
| 経口 | マウス LD50 1310 mg/kg;小児 TDLo 51 mg/kg:傾眠、痙攣 |
| 皮下 | ラット LD50 70 mg/kg;カエル LDLo 240 mg/kg |
| 吸入 | マウス LCLo 400 mg/m³/3時間:筋収縮または痙縮 |
この小児データは私がまとめた156件のヒト毒性記録の1件で、51 mg/kg はあの名簿でも低いほうだ。
皮下 70 mg/kg にも注意がいる——これは皮膚に塗るのではなく皮下に注射する経路で、別物だ。ただしこのデータベースでは低い数字である。
(いつもどおり:これらは誤飲・注射・吸入実験のデータで、香水の皮膚用量との間には経路と用量が挟まっている。カンファーの皮膚経路にはもっと関係の深い論文があり、それは下に。)
活性化するのはカプサイシンの通路だ
Xu らは2005年に《Journal of Neuroscience》で、非常に基本的な問題を扱った。カンファーは長く外用鎮痛剤として使われてきたが、その分子機構は分かっていなかった。
冒頭が文脈を置く。
カプサイシンとメントールという、同様の目的で広く使われる他の2つの外用剤は、一過性受容器電位(TRP)チャネルスーパーファミリーの2つのメンバー——熱感受性の TRPV1 と冷感受性の TRPM8——に作用して感覚神経を興奮させ脱感作させることが知られている。
そして発見。
カンファーは最近 TRPV3 を活性化することが示されたが、**ここで我々はカンファーが異種発現させた TRPV1 も活性化し、カプサイシンより高い濃度を要することを示す。**活性化は炎症状態を模したホスホリパーゼC共役型受容体の刺激によって増強された。⋯⋯ラット TRPV1 のカンファーによる活性化は、カプサイシンとは異なるチャネル領域によって媒介される。
そして論文の題が第2の要点を示す。カンファーは TRPV1 を活性化し、しかも「強く脱感作させる」。
まず活性化し、それから反応しなくさせる——それが外用鎮痛の機構だ。
**これで温度受容体の線がもう1マス埋まる。**この連載には既にメントール(TRPM8、冷)、シンナムアルデヒド(TRPA1)、オイゲノール、WS-3(純粋な冷涼、三叉神経)がある。カンファーが埋めるのは TRPV1——カプサイシンの熱の通路で、しかも別の場所から入る。
経皮吸収に数字がある
Martin らが2004年にカンファー、メントール、サリチル酸メチルの経皮吸収を測った論文は、サリチル酸メチルの記事で引用した(同じ研究で、ここではカンファーの列を見ている)。
8人が市販パッチを8枚8時間貼った結果。
| 血漿 Cmax | |
|---|---|
| カンファー | 41.0 ± 5.8 ng/mL |
| メントール | 31.9 ± 8.8 |
| サリチル酸メチル | 29.5 ± 10.5 |
**3本の中でカンファーが最も高い。**そしてあの論文の冒頭がなぜこの測定が必要だったかを述べている——広く使われているにもかかわらず、経皮投与後のヒトの暴露量の推定値が存在しなかった。
使い方
- **結晶固体で融点176–177 °C。**重量で測り、先に溶液にする。溶解度欄はエタノール。
- **ただし昇華する。**融点176 °Cの固体に蒸気圧 0.65 mmHg は高い——置いておくと徐々に飛ぶ。密閉する。
- **強度欄も残香欄も無いので、自分で測るしかない。**用量の参考になる欄が無い。
- 作品全体の方向を決めてしまう。「カンファー感」は隠しにくい信号だ。
- 変性剤でもあり可塑剤でもあることに注意する——使っているアルコールにカンファー臭があるなら、それはあなたが入れたものではないかもしれない。
この記事が立証していないこと
- **嗅いだことはない。**全文が欄と全庫統計と論文2本でできている。
- Xu らの論文は異種発現系とラット後根神経節ニューロンの実験であって、ヒトの知覚研究ではない。TRPV1 の活性化濃度がカプサイシンより高いことは述べたが、具体的な倍率は転記していない。
- Martin 2004 が使ったのは市販パッチであって香水ではない——パッチは吸収を促進する設計なので、41.0 ng/mL を肌に吹くものへ直接当てはめられない。この点はサリチル酸メチルでも記した。
- 小児 TDLo 51 mg/kg は誤飲のデータで、影響には痙攣が含まれる。皮膚や吸入の用量には換算していない。
- 皮下と吸入のデータは1934年と1957年のもので、手法は現代の基準と違う。
- 「4つの欄に1語」はこの記録の状態であって、全庫で香調欄が1語だけの材料が何件あるかは数えていない。
- Vicks の換算には年も出所も記されておらず、市販製品の処方は変わる。
- この材料に対する現行の IFRA スタンダードの条文は確認していない。