原料図鑑 · 108
原料図鑑:ベンゾフェノン(benzophenone)—— サプライヤーは「非常にかすか」と書き、残香欄は394時間と書く
· 10 分
CAS 119-61-9、サプライヤー41社。香調欄はバルサミック、ローズ、メタリック、パウダリー、ゼラニウム。一方でサプライヤー自身の記述は「非常にかすかなパウダリーでローズ・ゼラニウム様の匂い」だ。かすかと394時間の組み合わせは、数えられる分類に入る——サプライヤー10社以上で強度と残香の両方がある1,193本のうち、189本(15.8%)が強度は低か中で残香は350時間以上。バニリン、パチュリ油、クマリン、サンダルウッド油がそこにいる。この一族がやっているのは重量を支える仕事だ。さらにこれは融点47–51 °Cの結晶粉末で、GHS欄にはH351があり、保存欄は遮光を求めている。
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要点
- 名称:benzophenone(ベンゾフェノン)、別名 diphenylketone、CAS 119-61-9
- 分子式 C13H10O、分子量 182.22;FEMA 2134、JECFA 831、FLAVIS 07.032、CoE 166
- 香調:バルサミック型——バルサミック、ローズ、メタリック、パウダリー、ゼラニウム、ハーバル
- 強度:中(10% 以下で評価推奨)、強度ランク 2
- 残香:394 時間;蒸気圧 0.001 mmHg
- 外観:白色結晶粉末、融点 47–51 °C
- 純度:98.00 から 100.00;保存期限 36 か月以上
- サプライヤー:41社
- GHS:H351 発がんのおそれの疑い、H400/H410 水生毒性
- 保存:冷暗所、密閉、熱と光を避けて
**先に1つ。**これは日焼け止めの成分表にある benzophenone-3(oxybenzone)とは別物で、「紫外線対策に入れる」という推論は機構の向きが逆だ。それは〈紫外線対策に benzophenone を入れる〉に書いた。この記事は香料としての話だけをする。
「非常にかすか」と394時間
データベースが収めているサプライヤーの記述は、互いによく補い合っている。
「かすかな甘いローズ、ゼラニウムのようなハーバルなニュアンス」
「非常にかすかなパウダリーでローズ・ゼラニウム様の匂い、わずかにメタリック」
「甘く芳香、わずかにローズのフルーティ・ビニル感」
そして残香欄は 394 時間。
かすかさと持続が同居していて矛盾に聞こえるが、これは規模のある分類だ。
サプライヤー10社以上で強度欄と残香欄の両方に値がある材料を引くと1,193本ある。そのうち強度が「低」か「中」で残香が350時間以上のものは189本、15.8%。
その一族の顔ぶれ。
| 材料 | サプライヤー | 残香 | 香調タイプ |
|---|---|---|---|
| バニリン | 193社 | 400 h | vanilla |
| パチュリ油 | 148社 | 400 h | woody |
| ラズベリーケトン | 112社 | 400 h | berry |
| サンダルウッド油 | 81社 | 400 h | woody |
| シンナミルアルコール | 79社 | 371 h | balsamic |
| クマリン | 74社 | 364 h | tonka |
| benzophenone | 41社 | 394 h | balsamic |
**よく使われる材料の6本に1本がこの類で、処方の重量を支えているのはこの人たちだ。**強度が低いことは使用量が低いことを意味しない——サリチル酸ヘキシルの強度欄は「低」だが、処方での中央値は 7% だ。
これは今回のもう1本の記事の主題でもある。5人が診断した処方で、いちばん大きい2本はどちらも「中」強度で、合計は香料の半分を占め、5人とも一言も触れなかった(〈5人が同じ処方を診断して〉)。控えめな材料は重量表の上では控えめではない。
これは固体だ
融点 47–51 °C、室温では白色結晶粉末。
香調よりこちらのほうが作業上は重要になる。スポイトで量ることはできないし、そのまま入れて溶けるのを待つこともできない。実務では、
- **滴数ではなく重量で測る。**もともと滴という単位が無い。
- **先に溶液にする。**溶解度欄にはエタノール、固定油、パラフィン油が並ぶ。ふつうは 10% のエタノールか DPG 溶液にする。
- **低温で析出しうる。**融点 47–51 °C のものは 10% 溶液なら通常問題ないが、濃くすると注意がいる。瓶底の粒の見分け方は〈瓶の中の白い粒〉に書いた。
固体の香料は例外ではない——クマリン、バニリン、ヘリオトロピンもそうだ。
溶解度欄に紛れている一文
solubility 欄には溶媒の列挙のほかに、こう挟まっている。「多くの媒体で変色しない(non-discoloring in most media)」。
この表示はよくあるものではない。サプライヤー10社以上の 3,156 件のうち、**この一文を持つのは 213 件(6.7%)**だ。
石けん、キャンドル、ハウスホールド製品を作る人には価値がある——バルサミック系やフェノール系の材料は完成品を黄変させることが多い。ただし「多くの媒体で」であって全部ではないし、これはサプライヤーの言い分であって試験報告ではない。
由来欄:これは実際に植物に存在する
occurrence 欄は arisaema ciliatum、arisaema tortuosum(テンナンショウ属2種)とあり、notes 欄が「ブドウに存在する」と補っている。
同族の oxybenzone とは逆だ。あちらの occurrence は「自然界では未発見」なのに natural_synthetic 欄は「天然」と書いてある。この2欄が矛盾する記録は全庫に306件あり、〈「合成 vs 天然」の議論を、私のデータベースは裁けない〉で数えた。
**benzophenone のこの記録では2欄が一致している。**このデータベースではそれ自体が記録に値する。
GHS 欄は空ではない
H351 — 発がんのおそれの疑い H400 — 水生生物に非常に強い毒性 H410 — 長期継続的影響により水生生物に非常に強い毒性
背景の数字。全庫 42,225 件のうち GHS が入っているのは 359 件(0.9%)、サプライヤー10社以上の 3,156 件では 337 件(10.7%)。入っているものの中で H351 を持つのは4件——アセトアルデヒド、benzophenone、ムスクキシロール、シス-アコニット酸。
急性毒性のほうはむしろ高くない。経口ラット LD50 > 10000 mg/kg、経皮ウサギ LD50 3535 mg/kg。急性毒性が低いことと発がん性の疑いは別の評価項目で、互いに相殺しない。
そして H410 が言っているのは水域のこと、つまり排水に流れたあとの話で、あなたの肌の上の用量とは関係がない。この層は〈環境にやさしいムスク〉で分けて書いた。
これらの数字は 0.9% というカバー率に制約されており、「他の材料は問題ない」とは読めない。
なぜ光化学の教科書に出てくるのか
notes 欄にはこの一段もある。
「Benzophenone は光化学において一般的な光増感剤である。S1 状態から三重項状態へほぼ 100% の収率で項間交差する。生じたジラジカルは適当な水素供与体から水素原子を引き抜き、ケチルラジカルを形成する。」
Cuquerella らが2013年に《Accounts of Chemical Research》で光増感による DNA 損傷の総説を書いたとき、これを「古典的かつ範例的な発色団」として選んでいる。
処方への実際的な意味は限られる——あれは光化学実験の条件であって、香水瓶の中の条件ではない。ただしこの記録の保存欄がわざわざ「熱と光を避けて」と書いている理由の説明にはなるし、紫外線対策として入れるのが向きの取り違えである理由の説明にもなる。
使い方
- **10% 以下で評価する。**欄がそう勧めている。
- **持続するパウダリーなローズ/ゼラニウムの背景として使う。**主役ではない。香調欄にローズとゼラニウムがあり、処方ではフェニルエチルアルコールやシトロネロールの線につながる。
- 重量で測り、先に溶液にする。
- **遮光保存。**この記録自身がそう書いている。
- **紫外線対策の添加剤として使わない。**理由は別記事に。
この記事が立証していないこと
- **嗅いだことはない。**全文が欄と全庫統計と論文1本でできている。
- 「非常にかすか」はサプライヤーの記述であって私の判断ではないし、サプライヤーごとに記述は食い違う。
- 「低/中強度 × 長い残香」の189本はサプライヤー≥10、残香≥350 という私の引き方で、閾値は私が選んだ。変えれば数も変わる。しかも残香欄の 400 は天井で(〈Ambroxan の400時間〉)、この欄の長い側はもともと圧縮されている。
- 「変色しない」はサプライヤーの表示で、測っていないし、どの媒体で成り立たなくなるかも調べていない。
- GHS の4件は 0.9% のカバー率に制約されており、完全なリストではない。
- 急性毒性のデータは1973年から1983年の文献で、欄にそう記されている。
- 現行の EU 化粧品規制は確認していない。
regulatory欄には JECFA、FEMA GRAS、CoE、FLAVIS しか無く、IFRA の項目は無い。制限が無いという意味ではない。 - 光増感剤の段は光化学実験の条件の話で、香水処方の光照射下での実測データは私は持っていない。