原料図鑑 · 107
Javanol:メーカーは「前例のない残香」と言い、残香欄はサンダルウッド油と同じ数字を返す
· 10 分
sandal cyclopropane(CAS 198404-98-7)、Givaudan の Javanol、サプライヤー14社。メーカー文には「前例のない力と残香」とある。力のほうはデータベースが支持する——サンダルウッド調の材料29本のうち強度欄が「高」なのは3本だけで、これはその1本だ。残香のほうは確認できない。残香欄は400時間だが、残香値のある2,027件のうち334件(16.5%)が400で、400を超えるのは17件しかない。サンダルウッド油そのものも400だ。さらに純度の下限は85%、しかも「異性体の合計」と書かれていて、サプライヤーの多い材料の下位3.7%に入る。
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要点
- 名称:sandal cyclopropane/Javanol(Givaudan)、CAS 198404-98-7
- 分子式 C15H26O、分子量 222.37;FEMA 4776、JECFA 2254
- 香調:ウッディ型——トロピカル、ウッディ、脂感、サンダルウッド、ハーバル、コロン、フローラル
- 強度:高(10% 以下の溶液で評価推奨)、強度ランク 3
- 残香:400 時間(100% で);蒸気圧 0.001 mmHg
- 純度:85.00 から 100.00、異性体の合計
- 由来:
occurrence欄は「自然界では未発見」 - サプライヤー:14社(少ない)
- 毒性3欄すべて「未測定」
メーカー文には主張が2つある
データベースの香り記述欄には Givaudan 自身の文が収められている。
「Javanol は新世代のサンダルウッド分子で、前例のない力と残香を持つ。」
主張は2つあり、データベースの答え方はそれぞれ違う。
力:確認でき、成立する
odor 欄に sandalwood を含み、サプライヤー5社以上の材料を引くと29本ある。強度欄の分布はこうなる。
| 強度欄 | 件数 |
|---|---|
| 高 | 3 |
| 中 | 21 |
| 空欄 | 5 |
Javanol はその3本のうちの1本で、欄には「高、10.00% 以下の溶液で評価することを推奨」とある。
対照として、**サンダルウッド油そのものの強度欄は「中」**だ。sandal butenol、sandal pentanol、sandal cyclohexanol、santall——すべて「中」。
だから「力」のほうは欄が支持している。
残香:確認できない
残香欄は 400 時間。長そうに見える。
だが 400 はこの欄の上限だ。残香値のある 2,027 件のうち 334 件(16.5%)がちょうど 400 で、400 を超えるのは 17 件しかない。その天井そのものは〈Ambroxan の「400 時間」〉で一度分解した——あのときの論点は、元の欄に「>、10% 濃度、DPG 中」という3つの限定詞が付いていて、数値欄がそれを全部落としていたことだった。
Javanol の元の欄は違う。「400 hour(s) at 100.00 %」——不等号は無く、測っているのは純物質だ。まったく別の測定が、数値欄に入ると両方 400.0 になる。
サンダルウッド系で見るともっと直接的だ。
| 材料 | 残香 | 強度 |
|---|---|---|
| サンダルウッド油そのもの | 400 h | 中 |
| sandalrome | 400 h | 高 |
| sandal butenol | 400 h | 中 |
| sandal pentanol | 400 h | 中 |
| sandal pentenol | 400 h | 中 |
| sandal cyclohexanol | 400 h | 中 |
| santall | 400 h | 中 |
| muscomer | 400 h | 中 |
| Javanol | 400 h | 高 |
9本の材料、9つの 400。
「前例のない残香」は、この欄の中ではサンダルウッド油と同じ数字を受け取っている。
文が嘘だという意味ではない。この欄にはその問いに答える解像度が無いという意味だ。「前例のない」を検証するには同一手法での比較試験が要るのに、400 という天井がサンダルウッド系をまとめて1つのマスに押し込んでいる。
上の表の右端の列に注目してほしい。**強度は分けられ、残香は分けられない。**同じ材料群に対して、一方の欄は「高3・中21」という分布を出し、もう一方の欄は同じ数字を9個並べる。
純度欄の15ポイント
assay 欄は 85.00 から 100.00、異性体の合計。
サプライヤー10社以上で純度下限が読み取れる 2,091 件を見ると、
| 純度下限 | 件数 |
|---|---|
| 95 | 634 |
| 98 | 504 |
| 99 | 331 |
| 97 | 272 |
| 96 | 130 |
| 90 | 43 |
| 85 以下 | 77(3.7%) |
**85 は下位 3.7% に入る。**しかもそれより低いものの大半は意図的に調製された溶液(1% 溶液、PG 中30%)や試薬(過酸化水素、塩酸)で、純物質として売られる香料ではない。
「異性体の合計」とは、その15ポイントの余地に同じ分子の別の立体異性体が入るということだ。
長谷川らは2012年に《Molecules》で関連することをしている。(Z)- と (E)-α-サンタロールの誘導体を一連合成して官能評価し、**Z 体はウッディ、E 体は「無臭・フレッシュ・脂感」**という結論を得た——側鎖の二重結合の配置を入れ替えると、ウッディという特徴そのものが消える。
**Javanol は α-サンタロールではない。**シクロプロパン骨格(JECFA 名:1-メチル-2-(1,2,2-トリメチルビシクロ[3.1.0]ヘキサ-3-イルメチル)シクロプロピルメタノール)なので、あの論文をそのまま当てはめることはできない。ただし1つのことは立っている——サンダルウッド系の匂い分子では、異性体の配置がサンダルウッド香の有無を決めうる。
そして Javanol は「異性体の合計 85 から 100」で売られている。手元に届いたものの最大15%について、どの異性体なのかをサプライヤーは約束していない。
実務上の意味は単純だ。**サプライヤーやロットを替えるときは、再評価が必要な材料として扱う。**2ロットが直接入れ替え可能だと仮定しない。
Brocke らが2008年に《Chemistry & Biodiversity》で合成サンダルウッド香料の化学をまとめたとき、この方向の動機ははっきり書かれている——天然サンダルウッド油は希少で高価であり、その匂いの輪郭を模す合成原料の探索は「相変わらず難題である」。Javanol はその線上にある。
そのほかの欄
- **
natural_syntheticは「天然/合成」、occurrenceは「自然界では未発見」。**この2欄は矛盾していて、しかも例外ではない——全庫に306件ある。〈「合成 vs 天然」の議論を、私のデータベースは裁けない〉で数えた。ここではoccurrenceを採る。 - **毒性3欄すべて「未測定」。**警告に聞こえるが、先に数えた。サプライヤー10社以上の 3,156 件のうち 1,506 件(47.7%)が3項目とも未測定だ。つまりこれは常態であって、この材料に特有の状況ではない。
- 蒸気圧 0.001 mmHg(推定)、沸点 270.42 °C(推定)、logP 4.10(推定)——3つとも推定値。
- 引火点 136.11 °Cで、輸送上の可燃境界よりはるかに高い。この材料はその制約を受けない(〈可燃性液体を送る〉)。
- サプライヤー14社で、このデータベースでは少ないほうだ。特許 6,235,943(Odorants)。
- FEMA と JECFA の番号がある——食品香料としても扱われていて、
flavor欄はアンバー、ムスク、ウッディ、クリーン、ハーバル、フローラル、クラリセージ、サンダルウッド。
使い方
- **まず 10% 希釈を作る。**欄が自分でそう勧めているし、社交辞令ではない。
- **処方の中では重量順位が直感より下になる。**強い材料は少量でよいが、そのぶん重量表では重要でなさそうに見える——〈5人が同じ処方を診断して〉がまさにその問題だ。
- **残香欄で他のサンダルウッド材料と比べない。**9本が9つの400だ。
- **ロットが替わったら評価し直す。**純度下限85%で、その15%は異性体だ。
この記事が立証していないこと
- **Javanol を嗅いだことはない。**全文が欄と全庫統計と論文2本でできている。
- 「400 が天井」は分布からの推測(16.5% が同じマス、超えるのは17件)で、上限が明示されているわけではない。17件超えているので、厳密には硬い上限ではない。
- **サンダルウッド9本の400は数値欄しか照合しておらず、元の文字列の限定詞を1本ずつ見てはいない。**Javanol は100%純物質、Ambroxan は DPG 中10%——残り7本がどちらなのかは調べていない。
- **長谷川らの論文は α-サンタロールで、Javanol ではない。**骨格が違う。あの論文から取っているのは「異性体の配置がサンダルウッド香の有無を決めうる」という一般性であって、Javanol の具体的な異性体挙動ではない。
- その15%が実際に何なのかは分からない。「異性体の合計」は異性体だと言っているだけだ。
- 「サンダルウッド調29本」は
odor欄に sandalwood を含みサプライヤー5社以上という条件で私が引いたもので、公式分類ではない。条件を変えれば数は変わる。 - 強度欄はデータベースの判断で、単位が無く、使用量に換算できない。
- 毒性未測定の47.7%は「サプライヤー10社以上」という部分集合の比率で、全庫では違う。
- **価格と入手性は調べていない。**14社という数は収録範囲を示すだけだ。