原料図鑑 · 117
原料図鑑:WS-3 —— その仕事は匂うことではなく、風味欄は「三叉神経」という語を使う
· 9 分
CAS 39711-79-0、サプライヤー36社、FEMA 3455。強度欄は「低」、蒸気圧は 0.000085 mmHg、そしてデータベース上の2人の記述者は、一方が「穏やかなミント感」(25%)、もう一方が「ほとんど無臭」(10%)と書いている。本題は風味欄のほうだ。Mosciano は10〜100 ppm で「強く持続する冷涼の三叉神経効果」と記している——三叉神経であって嗅覚ではない。Klein 2011 はこれを効力の階梯に置いた。2つの新しいメントール誘導体は TRPM8 でメントールと WS-3 より40〜200倍強い。そして Erythropel 2020 は、EU 版の Juul ミントに WS-3 が含まれ、米加版には無いことを見つけている。
読了目安 5 分。
要点
- 名称:WS-3、正式名 N-エチル-2-イソプロピル-5-メチルシクロヘキサンカルボキサミド、CAS 39711-79-0
- 分子式 C13H25NO、分子量 211.35;FEMA 3455、JECFA 1601、FLAVIS 16.013、CoE 2298
- 香調タイプ:minty;香調:メントール感、ミント、アルコール感、冷涼
- 強度:低、ランク 1;蒸気圧 0.000085 mmHg
- 外観:白色から淡黄色の結晶固体、融点 91–93 °C
- サプライヤー:36社;
occurrence欄は「自然界では未発見」 - 備考欄:「生理的涼感剤。食品、飲料、チューインガム、トイレタリー、外用医薬品製剤、オーラルケア製品に用いられる」
- 毒性3欄すべて「未測定」
2人の記述者の言うことが違い、それは濃度の差だ
この記録の匂い記述欄には3段ある。
Luebke(2009):ジプロピレングリコール中 25.00%。穏やかなメントール感、ミント感。
Mosciano(2000):10.00% で。ほとんど無臭で、わずかにアルコール感と冷涼感。
(無署名):穏やかなミント感、ほぼ無臭。
一方はミント、一方はほとんど無臭——そして濃度は2.5倍違う。
強度欄が「低」で蒸気圧が 0.000085 mmHg しかない材料なら、この差は筋が通る。その蒸気圧はどれくらい低いのか。ベンゾフェノンは 0.001、Javanol も 0.001——**WS-3 はそれらよりさらに1桁以上低い。**ほとんど空気中に出てこない。
(データベースの匂い記述を誰が書いたか、そしてなぜ形容詞より先に濃度を見るべきかは〈その香調欄を書いたのは誰か〉に書いた。)
ただしこの件はさほど重要ではない。この材料は嗅ぐためのものではないからだ。
風味欄が「三叉神経」という語を使う
taste_descriptions 欄の Mosciano の段はこうなっている。
10.00〜100.00 ppm で。強く持続する冷涼の三叉神経効果。冷涼感はゆっくりと、しかし着実に強まり、わずかにカンファー感とミント感を伴う持続的な口中の冷たさになる。
「三叉神経(trigeminal)」という語は香料の記述欄では珍しく、ここに出てくるのは修辞ではない。
冷たさは匂いでも味でもない——温度受容体が化学物質に騙されているのだ。その線は〈メントール〉で分解した(TRPM8 冷受容体)。シンナムアルデヒド(TRPA1)とオイゲノールは同じ族の別のスイッチだ。
WS-3 はその線の「純化版」だ。メントールは匂いも冷涼感も持つが、WS-3 は匂いの側を落として冷涼感だけを残している。
- メントール:香調タイプ minty、明確な匂いを持つ
- WS-3:強度欄「低」、蒸気圧は1桁低く、冷涼効果は「強く持続する」と記述される
2つの効果を分離した分子だ。
Klein 2011 が効力の階梯をくれる
Klein らは2011年に《Chemical Senses》で、2つの新しいメントール由来の涼感化合物(論文中の GIV1 と GIV2)を測っており、WS-3 はその対照の1つだ。
結果は数層ある。
- TRPM8 を発現させた HEK 細胞のカルシウムフラックス実験で、GIV1 と GIV2 はメントールおよび WS-3 より約40〜200倍強力だった。
- 両者は TRPA1 も活性化するが、TRPM8 の活性化に要する濃度の400倍が必要だった——つまり実用的な用量では実質 TRPM8 しか触らない。
- 培養したラットの三叉神経節と後根神経節細胞のカルシウムイメージングでは一部の細胞が応答し、その多くはメントールでも活性化され、一部は TRPA1 作動薬のシンナムアルデヒドや TRPV1 作動薬のカプサイシンにも応答した。
- さらにラットの三叉神経脊髄路核尾側亜核で in vivo 単一ユニット記録を行い、冷感受性ニューロンが直接興奮した。
**論文の主役はあの2つの新規化合物で、WS-3 はベースラインだ。**だがそのベースラインは有用だ——WS-3 をメントールと同じ効力の桁に置き、新世代の桁には置かない。
(論文は、先行するヒト心理物理研究で GIV1 が歯磨き基材中で GIV2 や WS-3 より持続する冷涼感を起こしたと述べている。それは引用であってこの論文自身の実験ではなく、元の研究には当たっていない。)
思いがけない場所に出てくる
Erythropel らは2020年に《Tobacco Control》で、6か国で販売される同一ブランドの電子タバコ用リキッドを GC/MS で比較し、主要な風味成分とニコチン含量を測った。
その1つがこの材料に関わる。
EU で販売される「Mint」リキッドには合成涼感剤 N-エチル-p-メンタン-3-カルボキサミド(WS-3)が含まれ、米国/カナダ版には無かった。
同論文は EU 版の主要風味成分の濃度が有意に低いこと、米加版の「Mango」に乳化剤としてクエン酸トリエチルが含まれることも記録している。
**ここでの要点は電子タバコではなく、この分子の分布だ。**サプライヤー36社の涼感剤が、規制環境の違いによって同じブランドの市場版ごとに現れたり消えたりする。これはデータベースの欄からは見えない種類の情報だ。
家族の他のメンバー
データベースの涼感剤はこれだけではない。
| 名称 | CAS | サプライヤー | 強度欄 |
|---|---|---|---|
| WS-3 | 39711-79-0 | 36 | 低 |
| WS-23 | 51115-67-4 | 25 | — |
| WS-5 | 68489-14-5 | 15 | — |
| WS-12 | 68489-09-8 | 10 | — |
**WS の番号は強度の順ではない。**開発コードだ。4本のサプライヤー数には差があり、WS-3 がこの組で最も普及している。
使い方
- **固体で、融点 91–93 °C。**重量で測り、先に溶液にする。溶解度欄はエタノール、水は 21.38 mg/L しかない。
- 主に風味/オーラル製品の材料だ。
category欄は「flavoring agents」、cosmetic_usesは tonic のみ。 - **香りへの寄与は期待しない。**強度ランク1、蒸気圧 0.000085 mmHg。ミントの香りが欲しければメントールかミント油を使う。
- **効果は遅れて来て、積み上がる。**Mosciano の記述は「ゆっくりと、しかし着実に強まる」——香りの評価のリズムとは違う。
- FEMA、JECFA、FLAVIS、CoE の4つの番号を持ち、食品での規範は引ける。
この記事が立証していないこと
- **味わったことも嗅いだこともない。**全文が欄と全庫統計と論文2本でできている。
- **Klein らの論文の主役は GIV1 と GIV2 で、WS-3 は対照だ。**引用したのは WS-3 に与えられた相対的な位置であって、あの2つの新規化合物の評価ではない。
- **あれは細胞とラットの実験だ。**ヒトが感じる強さや持続を TRPM8 のカルシウムフラックス効力から直接導くことはできない。
- 「WS-3 が匂いと冷涼感を分離している」は欄から読んだこと(強度が低い、蒸気圧が低い、冷涼の記述が強い)であって、誰かが行った対照実験ではない。
- **Erythropel らが測ったのは2019年に購入した製品だ。**処方は変わるので、その差が今もあるとは限らない。
- **2人の記述者の2.5倍の濃度差が「ほとんど無臭」と「穏やかなミント感」の落差を説明しきるかは検証できない。**それは私が出した説明であって測定ではない。
- 毒性3欄はすべて未測定で、JECFA や EFSA の評価文書には当たっていない。
- WS 家族の他のメンバーは強度欄が空のものが多いので、あの表を効力の比較に使うことはできない。