原料図鑑 · 111
原料図鑑:コスタスルート油 —— 備考欄が「体のいかなる部位にも使わないこと」と直接書き、感作の原因分子2本はそれぞれ独立した記録になっている
· 9 分
CAS 8023-88-9、サプライヤー21社。これは私が読んだ中でいちばん語調の直接な備考だ——「潜在的な感作性のため、体のいかなる部位にも使用しないこと」。理由も同じ枠にある。接触過敏を起こすと報告されているセスキテルペンラクトンを含む、と。面白いのは、その2本が同じデータベース内で独立した記録になっていることだ——コスタスラクトン(コスツノライド、553-21-9、7社)とデヒドロコスタスラクトン(477-43-0、5社)。1982年、アミノエチルポリスチレンでそれを精油から吸い取ると、処理後の油はモルモットを感作できなくなった。そして今日もなお FEMA 2336 で、食用香料の線は閉じていない。
読了目安 5 分。
要点
- 名称:costus root oil(コスタスルート油)、原料は Saussurea lappa、CAS 8023-88-9
- 香調:アニマル型——オリス、グリーン、毛(hairy)、ウッディ、熟していないメロン
- 強度:中;残香 316 時間
- サプライヤー:21社;FEMA 2336、
regulatory欄は今も FEMA GRAS cosmetic_uses:もう使われていない- 備考欄の第1文:「潜在的な感作性のため、体のいかなる部位にも使用しないこと。」
- 急性毒性は高くも低くもない:経口ラット LD50 3400 mg/kg、経皮ウサギ > 5000 mg/kg
あの備考
たいていの記録の notes 欄は単離の由来や化学的背景を書いている。この記録の第1文は指示だ。
Do not use on any part of the body because of potential sensitizing. (潜在的な感作性のため、体のいかなる部位にも使用しないこと。)
同じ枠が続けて理由を出す。
「⋯⋯香水と化粧品に使われる。接触過敏を起こすと報告されているセスキテルペンラクトンを含む。」
**この連載で読んだ中で、いちばん直接的な一文だ。**たいていの材料のリスクは GHS 欄か毒性欄にあって自分で読み解く必要があるのに、この記録は結論を備考の1行目に置いている。
感作の原因分子2本は、それぞれ独立した記録だ
その「セスキテルペンラクトン」が誰なのかは、データベース自身が答えられる。同じ庫に入っているからだ。
| 記録 | CAS | サプライヤー | 分類 |
|---|---|---|---|
| costus lactone(コスツノライド) | 553-21-9 | 7社 | 天然物と抽出物 |
| dehydrocostus lactone | 477-43-0 | 5社 | 天然物と抽出物 |
| dihydrodehydrocostus lactone | 4955-03-7 | 0社 | 天然物と抽出物 |
**この2本は単体で売られている。**理論上の成分ではなく、発注できるものだ。
そして皮膚科の文献では、この2本に名前がついた役割がある。Paulsen は2023年に《Contact Dermatitis》で「セスキテルペンラクトン混合物(SL mix)」を総説した——1980年代に開発された、キク科の感作を調べるスクリーニング試薬で、成分は等モルのアランドラクトン、コスツノライド、デヒドロコスタスラクトンの3本だ。
つまり、コスタス油で人がかぶれる成分が、標準のパッチテスト試薬として使われている。
その総説が挙げる陽性率は、ヨーロッパで平均約1%、北米で0.8%、それ以外の地域では0%から10.7%。
Paulsen と Andersen の2011年の15年分のデータはもっと細かい。7,163人のうち157人(2.19%)が SL mix に陽性で、3成分のうち最も多く陽性反応を引き起こしたのがコスツノライド、次いでデヒドロコスタスラクトン、最後がアランドラクトンだった。
1982年のあの実験
Cheminat、Stampf、Benezra は1982年に《Acta Dermato-Venereologica》で、とてもきれいなことをしている。
冒頭でまず問題を立てる。コスタス油は「香水に使われ、多数の接触皮膚炎の症例の原因になっている」、そして原因のハプテンはコスツノライドとデヒドロコスタスラクトンの2本だ、と。
そのうえで、この2本のラクトンを精油から取り除いた——アミノエチルポリスチレンという高分子を使うとラクトンがそこに結合し、通過した溶液はラクトンを含まない。
モルモットを2群に分けた結果。
- 元のコスタス精油を注射した群は、感作に成功した。
- 高分子で処理した精油を注射した群は、感作できなかった。
同じ精油から2つの分子を抜いただけで、感作しなくなった。
これは1982年の動物実験で、規模も手法もその時代のものだし、追試があるかは調べていない。それでも1つのことを立てている。この油では、感作性が具体的な分子に帰属できる——「天然のものは成分が複雑だから何とも言えない」ではなく。
(「天然のほうが穏やか」という言い方の問題は〈合成は頭痛がするから天然しか使わない〉で測った。コスタス油はあの記事の反例のひとつだ。)
今日の規制上の状態は半分に切られている
regulatory 欄:FEMA GRAS、FEMA 番号 2336。
cosmetic_uses 欄:もう使われていない。
これが前回の切り方の1つめの山そのものだ——「もう使われていない」80件のうち26件は今も FEMA 番号を持ち、退いたのは化粧品であって食用香料ではない。詳しくは〈「もう使われていない」80本〉。
風味の欄は生きている。flavor 欄は「costus」、味の記述には「脂っぽく金属的でハーブのよう。スピリッツのトーンやブラウンノートの創作に」とある。
あなたにとっての意味ははっきりしている。これは香水にも、肌に触れるものにも使わない。
サプライヤー14社の代替品がある
同じデータベースに costus root oil replacer が14社あり、分類は fragrance agents で、cosmetic_uses 欄は空だ(引退表示が無い)。
コスタスルート油は87組の「本家 対 代替品」のうち、本家が実際に引退表示されている3組のひとつだ(あとの2本はムスクアンブレットとジヒドロクマリン)。多くの代替品は禁止されたものを代替してはいない、という話は〈データベースには178本の代替品がある〉に書いた。
この1本は「代替品を使うほかない」少数派に属する。
あの香調欄
香調欄は、オリス、グリーン、毛、ウッディ、熟していないメロン。
「毛(hairy)」という語はこのデータベースでは珍しく、しかも「オリス」と並んでいるのには理由がある——オリスのパウダリーさと、この乾いたアニマル感は同じ方向にある。「熟していないメロン」は別の線で、グリーンで、青くて、まだ甘くなっていない果肉の感じだ。
**この油が珍重されたのは、この組み合わせが他のもので寄せ集めにくいからだった。**代替品に14社あることは、同じ匂いがすることを意味しない。
この記事が立証していないこと
- **嗅いだことはないし、備考欄の言い分に従えば触りもしない。**全文が欄と全庫統計と論文3本でできている。
- **現行の IFRA スタンダードの条文は確認していない。**この記事はデータベースの欄と公表文献の話だ。規制上の状態は IFRA スタンダードと自分の地域の化粧品規制で確認してほしい。
- Cheminat らの論文は1982年のモルモット実験で、規模も手法も当時のもの。追試の有無は調べていない。
- SL mix の陽性率はパッチテストを受けた集団の数字で、そもそも接触皮膚炎の疑いで検査に来た人たちだ。一般人口の割合ではない。
- 「コスツノライドが最も多く陽性」は Paulsen と Andersen のデンマークのデータで、地域によってキク科への暴露は違うから順序も同じとは限らない。
notes欄の「体のいかなる部位にも使わない」はデータベースの文言で、いかなる規制当局の表現でもない。- この記録には残香以外の物性値が無い——融点も蒸気圧も logP も無く、外観欄は(推定)付きだ。天然抽出物では一般的なことだ。
- 代替品が本家に似ているかは比較していない。