はじめての調香 · 70
データベースには178本の「代替品」があり、その多くは手に入らないものを代替してはいない
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名前に replacer が付く記録は178件、うち144件にサプライヤーがあり、87件は同名の本家に突き合わせられる。直感的な説明は、本家が禁止されたか手に入らないから代替品がある、というものだ。この87組ではその説明はほぼ成り立たない。本家が「もう使われていない」と表示されているのは3組(ジヒドロクマリン、コスタスルート油、ムスクアンブレット)だけで、代替品のほうがサプライヤーが多いのも3組だけ。逆に、全庫でも屈指の148社を持つパチュリ油に21社の代替品があり、ラベンダー油は99対21、グレープフルーツ油は95対12、レモン油は74対31。代替品が本家に本当に勝っている唯一の例はシベット・アブソリュートで、17対31だ。
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カタログで「sandalwood oil replacer」を見たとき、直感的な説明はこうなる——サンダルウッドは高すぎるか手に入らないから、誰かが安い版を作ったのだ、と。
その説明は調べられる。
87組を並べられる
名前に replacer を含む記録は178件で、144件にサプライヤーがいる。名前から replacer を外して同名の本家を引くと、87件が突き合う。
(残る57件は突き合わない。本家がデータベース内で別名になっているか、1本の材料ではなく香調を代替しているのだろう。)
まず2つの仮説を潰す
仮説1:代替品があるのは本家が禁止されたからだ。
87組のうち、本家の cosmetic_uses が「もう使われていない」なのは何組か。
**3組。**ジヒドロクマリン、コスタスルート油、ムスクアンブレット。
87分の3だ。
仮説2:代替品のほうが手に入りやすいからだ。
代替品のサプライヤー数が本家を上回るのは何組か。
**これも3組。**シベット・アブソリュート(17社 → 31社)、ツリーモス・レジノイド(1 → 4)、カロカラウンデ・アブソリュート(0 → 2)。
直感的な説明2つが、それぞれ3組ずつしか当たらない。合わせて1割に満たない。
87組は実際どうなっているか
代替品のサプライヤー数で並べると、上位はこうなる。
| 本家 | 本家 | 代替品 | 代替品/本家 |
|---|---|---|---|
| シベット・アブソリュート | 17 | 31 | 1.82 |
| レモン油 | 74 | 31 | 0.42 |
| サンダルウッド油 | 81 | 27 | 0.33 |
| ゼラニウム油 | 38 | 25 | 0.66 |
| ラバンジン油 | 51 | 25 | 0.49 |
| ベルガモット油 | 58 | 21 | 0.36 |
| ラベンダー油 | 99 | 21 | 0.21 |
| オークモス・アブソリュート | 42 | 21 | 0.50 |
| パチュリ油 | 148 | 21 | 0.14 |
| カストリウム・アブソリュート | 23 | 19 | 0.83 |
| 沈香油 | 26 | 16 | 0.62 |
| ムスクアンブレット | 18 | 15 | 0.83 |
| コスタスルート油 | 21 | 14 | 0.67 |
パチュリ油はサプライヤー148社、このデータベースでも供給が最も厚い材料のひとつで、それでも21社の代替品がある。
ラベンダー99社、グレープフルーツ95社、レモン74社——どれも手に入らないものではない。
では replacer は何を代替しているのか
この87組から見えるだけで、少なくとも4つの違う理由が同じ語の下に混ざっている。
**1.本家が禁止された。**ムスクアンブレット、コスタスルート油、ジヒドロクマリン。3組しかないが、「代替品を使うほかない」唯一の状況でもある。
**2.本家が動物由来。**シベット、カストリウム。代替品が本当に本家を上回る唯一の状況で、シベットの17対31は87組で唯一比率が1を超える。
**3.本家が高価か供給が不安定。**サンダルウッド、沈香、ローズ・アブソリュート、オリス・アブソリュート。ここは直感どおりだ。
**4.本家は安価で合法だが、欲しいのは別のもの。**レモン、ラベンダー、パチュリ、グレープフルーツ、ローズマリー、マンダリン——このグループが名簿の大半を占める。
4番目の動機はデータベースに書かれておらず、いちばん自分で判断が要る。**ロット安定性、コストの予測可能性、天然の中の特定成分を避けること、あるいは似た匂いで挙動の違うものが欲しいだけ、かもしれない。**柑橘にはもう一層ある——光毒性は天然の柑橘油に固有の問題で、代替品が必ずしも抱えているとは限らない。
(天然精油そのもののロット差は〈天然原料はどれだけばらつくか〉で測った。)
代替品の記録はどう見えるか
これらの replacer 記録には共通点がある。category はほぼ「fragrance agents」で、cosmetic_uses 欄はたいてい空だ。
単一分子ではなく調合ベースなので、CAS も分子式も純度も無い。代替品を調べるとき、本家を調べるより得られる情報が格段に少ない。商品名で何も引けない4つの理由は〈引けないには4種類ある〉に書いた。
実際にどうするか
- **replacer を見て本家に問題があると自動的に思わない。**87組中3組しかそうではない。
- **先に本家の
cosmetic_usesとregulatoryを引く。**本家が引退表示でなければ、代替品が解決しているのは価格か安定性か別の何かで、合法性ではない。(引退表示の読み方は〈「もう使われていない」80本〉。) - **動物由来の2本は例外だ。**シベットとカストリウムでは代替品が主流になっている。
- **代替品のデータは必ず本家より少ない。**CAS が無ければ IFRA との対応も毒性データも純度も無い。規格書はサプライヤーに求める。
- **パチュリ、ラベンダー、レモンは本家がいくらでも手に入る。**代替品を使うなら具体的な理由が要る。名前が代替品だから安全とか安いとか、そういうことではない。
この記事が立証していないこと
- **これは命名の監査であって市場調査ではない。**数えたのはこのデータベース内で名前に replacer を含む記録で、実際の販売量ではない。
- **87組は「replacer を外すと同名」で突き合わせた。**残る57件の本家は個別に探していないので、その分布は違うかもしれない。
- **サプライヤー数は収録状況であって入手性や販売量ではない。**これは〈何件の処方に出るかで買うかを決める〉で踏んだ。
- 「4つの理由」は私の分類で、各代替品がなぜ存在するかを説明する欄はデータベースに無い。4番目はとくに推測だ。
- **どの組についても香調欄や組成は比較していない。**代替品が本家に似ているかは、この記事はまったく扱っていない。
- 本家によっては別の欄に制限があり(IFRA の使用量制限など)、
cosmetic_usesは空のことがある。「3組だけが禁止」はこの1欄の話であって、規制の全体像ではない。