はじめての調香 · 116
はじめての調香 #116:旋光度 —— 買ったあと自分で検証できる唯一の欄
· 11 分
全庫で旋光度を持つ材料は359件(0.9%)しかないが、その359件の情報密度は高い。5種類の柑橘の脱テルペン階段は完全に単調だ。レモンは+57~+65.5が脱テルペン後に−8~−10、スイートオレンジは+94~+99がフォールド後+78~+91、脱テルペン後+11~+24、ライムは+34~+47がフォールド後−9~+2、脱テルペン後−9~−11、グレープフルーツは+91~+96が脱テルペン後+15~+22。残香欄が同じことを独立に裏づける。スイートオレンジは140時間が脱テルペン後212時間になる。この線をたどって誤りも2件見つけた。laevo-menthol はサプライヤー114社ありながら旋光度が−1から+2と登録されており、全庫の他のlaevo・dextro材料はすべて名前と符号が一致している。自身の酢酸エステルでさえ−70から−75だ。lime oil expressed は+35.00から−41.00と登録されているが、同じ組のメキシコ版は+41.00から+35.00で、あの負号は打ち間違いである。
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要点だけ
- 旋光度を持つ材料は全庫で **359件(0.9%)**しかない
- しかしこれは、このデータベースで買ったあと自分で検証できる唯一の欄である
- 5種類の柑橘の脱テルペン階段は完全に単調(テルペン留分 > 原油 > フォールド > 脱テルペン)
- 残香欄が独立に裏づける。スイートオレンジ原油140時間、脱テルペン後 212時間
- 43%が全正、33%が全負、24%がゼロをまたぐ
- 誤りを2件発見。
laevo-mentholが−1から+2(サプライヤー114社)、 およびlime oil expressedの+35.00から−41.00
この欄が特別な理由
ここ数十回で調べた欄の多くは自分で検証できない。
残香は1か月置く必要があり、香調欄は他人の主観的記述であり、
蒸気圧は96%に (est) が付いている。
旋光度は違う。旋光計1台とサンプル管1本、5分で済む。 しかも測っているのは分子の立体構造で、それは香調の本当の源であり、 最も偽造しにくいものの1つでもある。
問題は数が少ないことだ。42,225の材料のうち359件にしか値がない。
5種類の柑橘、1本の階段
前回、レモンは脱テルペンで旋光度の符号が反転すると書いた。 今回は5種類の柑橘を全部並べる。
| テルペン留分 | 原油 | フォールド | 脱テルペン | |
|---|---|---|---|---|
| レモン | — | +57 ~ +65.5 | — | −8 ~ −10 |
| スイートオレンジ | +92 ~ +105 | +94 ~ +99 | +78 ~ +91 | +11 ~ +24 |
| ライム | +45 ~ +57 | +34 ~ +47 | −9 ~ +2 | −9 ~ −11 |
| グレープフルーツ | +95 ~ +100 | +91 ~ +96 | +62 ~ +73 | +15 ~ +22 |
| ベルガモット | +44 ~ +55 | +8 ~ +24 | — | — |
**どの行も単調だ。**テルペン留分が最も高く、原油が次、フォールドがさらに低く、脱テルペンが最も低い。
理由は前回のあの notesにある。柑橘油は90%以上がd-リモネンで、
リモネンの比旋光度は+100前後だ。それを抜けば、残った含酸素化合物では針が動かない。
ベルガモットの行が特に面白い。原油が+8から+24しかないのは、 ベルガモットがもともと柑橘のなかでリモネンの比率が低く、酢酸リナリルの比率が高いからだ。 旋光度が組成の違いをそのまま映している。
残香欄が同じことを独立に裏づける
あの階段が本物なら、「最も揮発しやすい成分を抜く」ことは残香を伸ばすはずだ。調べた。
| 材料 | 旋光度 | 残香 |
|---|---|---|
| orange oil terpenes | +92 ~ +105 | 4時間 |
| sweet orange peel oil | +94 ~ +99 | 140時間 |
| sweet orange peel oil terpeneless | +11 ~ +24 | 212時間 |
| grapefruit oil terpenes | +95 ~ +100 | 12時間 |
| grapefruit oil | +91 ~ +96 | 264時間 |
**旋光度が下がり、残香が上がる。**まったく独立した2つの欄が、同じ機構を指している。
ここ数回同じ記録の2つの欄を互いに検査することを続けてきた。 これはその上位版だ。材料をまたぎ、2つの欄をまたぎ、5種類の果物をまたいで、すべて一致している。
24%はゼロをまたぐ
359件のうち87件(24%)の範囲が正負の両方を含む。多くはゼロ近傍だ。
| 旋光度 | サプライヤー | 材料 |
|---|---|---|
| −3.00 to +2.00 | 198 | geraniol |
| −2.00 to +2.00 | 135 | linalool |
| −2.00 to 0.00 | 128 | clove bud oil |
| −2.00 to +2.00 | 96 | (E)-anethol |
これは妥当だ。ゲラニオールには不斉炭素がなく、市販のリナロールはラセミ体で、 クローブ油の主成分オイゲノールにも不斉炭素がない。 範囲がゼロをまたぐ=実際には旋光しないということで、あの規格は測定誤差を許容しているだけだ。
しかし1つ、この表にいてはいけないものがある
laevo-menthol(#24093、サプライヤー114社、CAS 2216-51-5)の登録値はこうだ。
-1.00 to +2.00
名前に「左旋」と書いてある材料の規格が、右旋を許している。
全庫の laevo-/dextro- を名前に持つ材料を並べた。
| 材料 | 旋光度 | 名前と一致 |
|---|---|---|
| laevo-carvone | −62 ~ −57 | ✓ |
| laevo-limonene | −118 ~ −108 | ✓ |
| dextro-limonene | +87 ~ +102 | ✓ |
| laevo-linalool | −15 ~ −19 | ✓ |
| laevo-bornyl acetate | −35.5 ~ −39 | ✓ |
| laevo-menthyl acetate | −70 ~ −75 | ✓ |
| laevo-menthol | −1 ~ +2 | ✗ |
17件のうち16件が一致し、メントールだけが一致せず、しかもサプライヤー数は全部のなかで最多である。
外部データを一切必要としない内部的な論証もある。
laevo-menthyl acetate はl-メントールの酢酸エステルで、−70から−75と登録されている。
エステルが強く左旋するのに、その母体アルコールが旋光しないということはありえない。
3つめの手がかりもある。同じデータベースの
dextro,laevo-menthol(ラセミ体、CAS 89-78-1、38社)は旋光度欄が空だ。
あの「−1から+2」は間違った記録に入れられたように見える。ラセミ体のものであって、左旋体のものではない。
もう1つ、負号が打ち間違えられている
ライム油の組。
| 材料 | 旋光度 | サプライヤー |
|---|---|---|
| lime oil | +34.00 to +47.00 | 39 |
| lime oil distilled | +34.00 to +47.00 | 31 |
| lime oil expressed | +35.00 to −41.00 | 34 |
| lime oil expressed mexico | +41.00 to +35.00 | 17 |
lime oil expressed は+35.00から−41.00、正から負へまたぐ幅76度の範囲である。
同じ組のメキシコ版は +41.00から+35.00(降順だが両端とも正)。
**同じ油、同じ製法で、一方は+35から+41、もう一方は+35から−41。**あの負号は余計だ。
(「同族の材料を横に並べる」ことで単発の誤りを捕まえたのはこれで3度目になる。 前の2回は沸点欄と融点欄と アルデヒドのC番号だった。)
どう使うか
- **脱テルペン品やフォールド油を買ったら測る。**原油より明らかに低いはずで、 レモンとライムでは負になる。原油と同じなら、それは脱テルペンされていない。
- **柑橘の原油を買ったら測る。**スイートオレンジは+94から+99、グレープフルーツは+91から+96のはずだ。 低ければ脱テルペン油や溶剤の混入を疑う。
laevo-/dextro-を名前に持つ単体は、数字が名前と同じ符号であるべきだ。 このデータベースには1つ例外があるが、あなたの瓶が例外であってはいけない。- **範囲がゼロをまたぐ材料は測らなくてよい。**もともと旋光しない。
専門的なやり方はこれよりずっと細かい。現在の真贋判定は瓶全体の総旋光度ではなく、 対掌体比(キラルカラムで2つの鏡像分子を分け、その比を測る)を使う。 2017年に Hong らがMDGC-MSで各種柑橘の対掌体組成を測定し(PMID 28444796)、 2023年には Cucinotta らがさらに進んでレモン精油のキラル同位体分別を測っている(PMID 37757528)。
旋光計が与えるのは粗いが安価な版だ。「これはそもそも脱テルペン油ではない」は捕まえられるが、 「このロットは5%混ぜてある」は捕まえられない。
この記事が示していないこと
- **どの材料の旋光度も測っていない。**全体は欄の値の比較である。
- **「リモネンの比旋光度は+100前後」は一般論だ。**データベースの
dextro-limoneneは+87から+102で、 それはこの材料の規格であって純物質の文献値ではない。 - **
laevo-mentholの件は外部データを調べていない。**論証はすべて内部的だ。 同類16件との比較、自身の酢酸エステルとの比較、ラセミ体の記録が空欄であること。 3つとも同じ結論を指すが、権威ある出典は得ていない。 - **
lime oil expressedも同様だ。**負号が打ち間違いだという根拠は同じ組の他の3件の範囲であって、原資料ではない。 - **5種類の柑橘の階段にはいくつか空欄がある。**レモンとベルガモットにフォールドの記録がないことは、 市場に存在しないという意味ではない。
- 旋光度は0.9%の材料にしか値がないので、この方法一式はその359件でしか使えない。