はじめての調香 · 122
はじめての調香 #122:(est) の付いた値のほうが一致する。そしてそれこそ証拠に使えない理由だ
· 9 分
このデータベースは多くの数値の後ろに est を付けている。比率は大きく違う。xlogp3は100%、logPは99.7%、外観欄は99.8%、蒸気圧は94%、沸点は57.7%、そして融点はわずか4.2%。沸点と蒸気圧の回帰を使って、est の付いた値が不正確かどうかを検証した。結果は直感と逆だった。香調欄を持つ香料材料に限ると、両欄とも推定値の518件は残差の標準偏差18.7 °C、50度を超える偏差は1.0%。両欄とも実測値の186件は標準偏差27.1 °C、50度超が7.5%。推定値のほうがどの項目でも一致している。理由は難しくない。2つの推定値は同じモデルから来ており、一致するように設計されている。2つの実測値は別々の実験室と年代から来ており、食い違うのが常態だ。そしてそれこそが要点である。一致は正しさではないので、2つの推定値が合っていることを正しさの証拠にはできない。これは私自身がしてきた多くの欄をまたぐ検査にも制限をかける。
読了目安 5 分。
要点だけ
(est)の比率は明快な階段になっている。
| 欄 | 値あり | (est) 付き |
比率 |
|---|---|---|---|
| xlogp3 | 18,450 | 18,450 | 100.0% |
| appearance | 10,270 | 10,248 | 99.8% |
| logp | 19,667 | 19,604 | 99.7% |
| vapor_pressure | 9,020 | 8,479 | 94.0% |
| solubility | 23,941 | 20,158 | 84.2% |
| bp | 13,009 | 7,511 | 57.7% |
| flash_point | 14,316 | 8,109 | 56.6% |
| mp | 3,080 | 130 | 4.2% |
- 「推定値は不正確か」を検証した。香料材料に限ると答えは逆だった。
| 沸点/蒸気圧 | 件数 | 残差SD | 偏差 >50 °C |
|---|---|---|---|
| 両欄とも実測 | 186 | 27.1 °C | 7.5% |
| 両欄とも推定 | 518 | 18.7 °C | 1.0% |
- 理由は2つの推定値が同じモデルから来ていること。一致は設計されたものだ
- **そして一致は正しさではない。**これは私自身の多くの検査に制限をかける
この小さな注記はどこに現れるか
前回、(est) が沸点の衝突を解決できることを見つけた。
同じ圧力で2つの沸点を持つ208件のうち9割が「一方に (est)、他方になし」で、付いていないほうを残せばよかった。
そこでこの注記そのものを調べたくなった。8つの欄に現れ、比率は大きく違う。
融点は4.2%しか推定でなく、xlogp3は100%が推定だ。
この順序には理由がある。**融点は測りやすい。**加熱台に小片を置いて透明になる温度を見ればよく、 機器は安く、操作は速く、結果は明確だ。**分配係数(logP)は測りにくい。**二相分配をして 両側の濃度を測る必要があり、水にほとんど溶けない材料では測定自体が成り立たない。だから計算する。
この欄の推定比率が映しているのは「測るのがどれだけ面倒か」である。
推定値のほうが不正確だと思っていた
これは検証できる。数回かけて使ってきた沸点と蒸気圧の回帰を
基準にする。8,048件で 沸点 ≈ 181.5 − 36.5 × log10(蒸気圧)。そして組み合わせ別に残差を比べる。
全庫の結果。
| 組み合わせ | 件数 | 残差中央値 | SD | >50 °C | >100 °C |
|---|---|---|---|---|---|
| 両欄とも実測 | 328 | 13.2° | 24.8 | 5.8% | 0.9% |
| 沸点実測、蒸気圧推定 | 3,791 | 10.8° | 26.6 | 4.0% | 1.3% |
| 両欄とも推定 | 3,913 | 10.5° | 40.4 | 2.7% | 1.9% |
**中央値はほぼ同じだが、標準偏差が大きく違う。**推定値は真ん中では実測と同じくらいよく、裾がずっと厚い。
その厚い裾は何か。残差が100 °Cを超える74件を見た。 26件が除草剤、13件が医薬品、10件が天然物抽出物で、96%は香調欄が空だった。
推定式は見たことのない化学空間で崩れる。そしてその空間がこのデータベースの大半を占めている。
香料に限ると逆転する
香調欄を持つ2,774件に範囲を絞る。
| 組み合わせ | 件数 | 残差中央値 | SD | >50 °C | >100 °C |
|---|---|---|---|---|---|
| 両欄とも実測 | 186 | 10.9° | 27.1 | 7.5% | 1.6% |
| 沸点実測、蒸気圧推定 | 2,066 | 10.5° | 26.3 | 4.9% | 1.3% |
| 両欄とも推定 | 518 | 10.2° | 18.7 | 1.0% | 0.6% |
**どの項目でも推定値のほうがよい。**50度を超える偏差の比率は1.0%対7.5%で、7倍違う。
なぜか
推定が正確だからではない。同じモデルから来ているからだ。
そのモデルは分子構造から沸点を計算し、同じ分子構造から蒸気圧も計算する。 2つの出力は同じパラメータと同じ仮定を使っている。 それらが互いに合うのは設計されたことであって、検証されたことではない。
一方、2つの実測値は別々の実験室、別々の年代、別々の純度、別々の機器から来る。 それらが50度違うということは、少なくとも一方が誤っているということだ。それは情報である。
推定値の一致は何も教えず、実測値の不一致は調べるべきものがあると教える。
これは私自身の多くの記事に制限をかける
今回の結論のせいで、これまでの検査を見直さなければならない。
ここ数十回の方法はずっと「同じ記録の2つの欄を互いに検査する」ことだった。 沸点と融点、 沸点と蒸気圧、 旋光度と脱テルペンの状態。
その2つの欄がどちらも (est) である場合、一致していること自体に証拠力はない。
具体的には。
- VerdoxとVertenexの蒸気圧が「完全に同じ」だと書いた。
**どちらも
(est)だ。**同じモデルがほぼ同じ2つの構造を読めば、同じ答えを返すに決まっている。 あの記事の末尾で触れてはいたが、それがどれだけ深刻かは定量していなかった。 - 蒸気圧から2-メチルウンデカナールの沸点は233だと推論した。 あの論証は主に同族列に依っており、蒸気圧は傍証だったので、まだ持ちこたえる。
- 逆に、融点は4.2%しか推定でないので、 **「沸点欄と融点欄が同じ数字」という検査は特に信用できる。**融点側はほぼ実測だからだ。
この注記をどう使うか
- **
(est)を見て「信用できない」と考えないこと。**香料の化学空間ではよく機能している - **ただし2つの
(est)値が合っていることを証拠に使わないこと。**同じモデルの2つの出力だ - **2つの実測値が食い違っているときこそ追う価値がある。**何かが誤っているということだ
- 融点欄はこのデータベースで最も「実測」の欄だ(95.8%が
(est)なし)。基準にするなら最も安全 - **xlogp3には実測値が1つもない。**18,450件すべてが
(est)の、純粋な計算値の欄である
この記事が示していないこと
- **外部の真値とは一切照合していない。**測ったのは「2つの欄がどれだけ合うか」であって、 それは一貫性であり正確さではない。推定値は一貫して誤ることがある。
- **回帰自体の残差標準偏差は34 °C(全庫)ある。**精密な物差しではない。
- **「同じモデル」は私の推論だ。**データベースは
(est)値がどう計算されたか述べておらず、 挙動が同じ出どころらしいことしかわからない。 - **実測値の変動の大きさは私の解析にも由来しうる。**同じ欄に複数の値があるとき、
最初の
@ 760.00 mm Hgの断片を取っており、悪いほうを選んでいる可能性がある。 - 香料と非香料の区別は「香調欄に値があるか」で行った。前回決めた粗い判定だ。
- 測定誤差が統計的推論に与える影響には専門の文献があり(PMID 20573762の回帰希釈もその1つ)、 化学データセットのクリーニング手順にもある(PMID 27885862)。 ここでやったのは1つのデータセット内部の比較であって、あの水準の仕事ではない。