はじめての調香 · 121
はじめての調香 #121:同じ圧力で沸点を2つ書いている208件
· 9 分
1つの材料は同じ圧力で1つの沸点しか持てない。全庫に2つ以上書かれているものが208件あり、差の中央値は5 °C、四分位は2から18。しかしこの検査は自分で答えを持っている。187件(90%)は2つの値のうち一方に est が付き、他方に付いていない。推定値が測定値の隣に置かれているだけなので、付いていないほうを残せばよい。厄介なのは両方に付いていない20件で、そのうち差が20 °Cを超えるのは6件だけ。残る14件は差が0から5度で、単なる重複登記である(4件は2つの値が完全に同一)。その6件のうち最大の2つはサプライヤーが多い。1,8-シネオール(77社)は176–177と90–91、ジメチルスルフィド(81社)は37.30と−37.50から−37.30。後者は同じ数字に負号が付いたもので、このデータベースで見つけた3つめの符号の誤りだ。
読了目安 4 分。
要点だけ
- 208件が同じ圧力で2つ以上の沸点を登録している
- 差の中央値は 5 °C、四分位は2から18。差が20 °Cを超えるのは48件
- 187件(90%)は「一方に
(est)、他方になし」。付いていないほうを残せばよい - 両方に付いていないのは 20件だけで、差が20 °Cを超えるのは 6件
- 残る14件は差が0から5度の重複登記。4件は2つの値が完全に同一
- 最大の2つ:1,8-シネオール(77社)差87 °C、ジメチルスルフィド(81社)は符号の誤り
これは最も手間のかからない検査だ
ここ数回で内部整合性の検査をいくつか積み上げてきた。 沸点欄と融点欄が同一、 減圧沸点が常圧より高い、 規格範囲の丸い端点、 同族の材料を横に並べる。
今回はもっと単純だ。1つの材料は同じ圧力で1つの沸点しか持てない。
bp 欄に @ 760.00 mm Hg と付いた数字が2つあれば、片方は余計である。
208件だが、大半は心配いらない
| 件数 | |
|---|---|
| 同じ圧力で2つ以上の沸点値 | 208 |
| 差 >1 °C | 170(82%) |
| 差 >5 °C | 98(47%) |
| 差 >20 °C | 48(23%) |
| 差 >50 °C | 26(12%) |
差の中央値は 5 °C しかない。多くは同じ材料の2つの文献値で、数度違うのはふつうのことだ。
そして9割の場合、この検査は自分で答えを持っている
ここは予想していなかった。2つの値に (est) が付いているかを見る。
| 件数 | 割合 | |
|---|---|---|
一方に (est)、他方になし |
187 | 90% |
| 両方になし | 20 | 10% |
両方に (est) |
1 | 0.5% |
9割は推定値が測定値の隣に置かれているだけだ。
しかも差が大きいほどこの傾向は強い。差が20 °Cを超える48件のうち43件(90%)が推定と実測の組である。
規則は単純だ。2つの値が違うときは、(est) の付いていないほうを残す。
例。para-anisyl formate(サプライヤー21社)にはこうある。
220.00 °C. @ 760.00 mm Hg | 254.00 to 255.00 °C. @ 760.00 mm Hg (est)
**220を残す。**あの35 °Cの開きは推定式と実測の開きであって、データの誤りではない。
残る20件、本当に問題なのは6件
両方に (est) がない20件が、2つの測定が食い違っているものだ。
| 差 | サプライヤー | 材料 | 2つの値 |
|---|---|---|---|
| 87.0 °C | 77 | 1,8-cineole | 176–177 / 90–91 |
| 77.0 °C | 4 | 5-acetyl-2,3-dihydro-1,4-thiazine | 259–319 / 242 |
| 74.8 °C | 81 | dimethyl sulfide | 37.30 / −37.50 から −37.30 |
| 66.0 °C | 2 | fresh decan-2-one | 323–325 / 259 |
| 62.0 °C | 40 | 2-methyl undecanal | 171 / 233 |
| 20.0 °C | 67 | maple furanone | 102–103 / 83–86 @0.5 mmHg |
**この6件だけだ。**残る14件は差が0から5度である。
laevo-linalool(25社):198と197–199。後者が前者を含んでおり、同じ値の2通りの書き方dipentene(37社):176と178- 4件は2つの値が完全に同一。
cyclohexyl butyrate212と212、4-butyl pyridine209と209など。 純粋な重複登記である
208件のうち本当に処理が要るのは6件で、全庫の0.014%にあたる。
ジメチルスルフィドのは符号の誤りだ
37.30 °C. @ 760.00 mm Hg | -37.50 to -37.30 °C. @ 760.00 mm Hg
同じ数字に負号が付いている。
ジメチルスルフィドの沸点は37 °C(常温で飛んでいくもので、蒸気圧は647 mmHg)。 融点欄は−98 °C、引火点は−36.67 °C。だから37.30が正しく、あの−37.30は負号が余計だ。
これはこのデータベースで見つけた3つめの符号の誤りである。 1つめはライム油の旋光度 +35 から −41、 2つめは私自身の正規表現がアセトアルデヒドの−53を53と読んだことだった。
負号は落ちやすく、増えやすい。
1,8-シネオールの90 °Cは何なのか
サプライヤー77社の主流材料だ(ユーカリの主成分である)。
176.00 to 177.00 °C. @ 760.00 mm Hg | 90.00 to 91.00 °C. @ 760.00 mm Hg
176–177は正しい。シネオールの沸点は176 °Cで、蒸気圧1.900 mmHgもこの階級に合う。
では90–91はどこから来たのか。同じ記録の他の欄を見た。融点1–2 °C、引火点50 °C。 どれも90ではない。
あの数字の出どころはわからない。そしてそれがこの検査の限界だ。 「ここに余計な数字がある」とは言えても、「その数字がもともとどこのものか」は言えない。
自分で走らせられる規則
任意の材料の沸点欄を開いて。
- **値が2つ以上あるか。**圧力の注記を見る
- **2つの圧力は同じか。**同じなら片方は余計だ
- **どちらかに
(est)が付いているか。**付いていればもう一方を残す。9割はこれで解決する - 両方に付いていないなら他の欄を見る。蒸気圧、融点、引火点はどれも傍証になる
3番目が要点だ。(est) という小さな注記は、このデータベースで最も有用なメタデータの1つである。
そしてそれは蒸気圧の96%、外観欄の96%にも付いている。
私がしてきた推論の多くは、実は推定値の上に立っている。
この記事が示していないこと
- **どの材料の正しい沸点も調べていない。**全体は欄の内部比較である。
- **「
(est)の付いていないほうを残す」は経験則だ。**実測が推定より信用できるという前提に立っており、 多くの場合はそうだが定理ではない。実測も書き写しを誤る。 - **6件という数字は20 °Cを閾値にしたことに依存する。**10 °Cにすれば数件増える。
- 1,8-シネオールの90 °Cの出どころは見つけていない。
- 走査したのは
bp欄だけだ。mp、flash_point、specific_gravityにも同種の問題がありうるが、調べていない。 - 化学データセットの自動クリーニングには専門の文献がある(PMID 27885862、PMID 23237381)。 ここでやったのは目視で追える4つの手順であって、あの水準の仕事ではない。