データの読み方 · 17
旋光度欄はどれだけ広いか:中央値は10度、最も広い一件は−2400と書かれている
· 10 分
いくつかの原料図鑑で「受け取ったら自分で旋光度を測る」と勧めてきた。本稿はその助言を完成させる。データベースで旋光度欄を持ち、サプライヤーが20社以上ある材料は141件あり、範囲の幅の中央値は10度になる。狭いほうは実際に検品に使える。フランキンセンス油は−0.05〜0.00、クローブバッド油は−2.00〜0.00。広いほうには識別力がない。ブラックペッパー油は−1〜−23で141件中16番目に広く、ガージュンバルサム油は−60〜0、そして圧搾ライム油は+35〜−41と書かれている。この範囲はゼロをまたぐので、0と測れた試料も規格内になる。最も極端なのはバージニアシダーウッド油で、欄には−2400〜−38.00、幅2362とある。精油の比旋光度が−2400度になることはなく、小数点の位置がずれたように見える。しかもこの材料にはサプライヤーが85社ある。文献二つも同じ一文を指す。2024年の論文はキラルGC/MSで市販ティーツリー油を検証し、真正88件と酸化12件はISO 4730:2017の推奨範囲に一致したが、著者の結論はその標準との比較が「偽和された試料を必ずしも識別しない」だった。
読了まで約4分。
長い話を短く
- 旋光度欄を持ちサプライヤー20社以上の材料は 141件、範囲の幅の中央値は10度
- 狭いほうは検品に使える。フランキンセンス油 −0.05〜0.00、クローブバッド油 −2.00〜0.00
- 広いほうは使えない。ブラックペッパー油 −1〜−23(16番目に広い)、ガージュンバルサム油 −60〜0
- **圧搾ライム油は+35〜−41で、範囲がゼロをまたぐ。**0と測れても規格内になる
- 最も極端なのはバージニアシダーウッド油の −2400〜−38.00、幅2362。この数値は成り立たない
- 以前の記事で「受け取ったら旋光度を測る」と勧めたが、それは範囲が十分狭いときにだけ成立する
まずブラックペッパー油から
ブラックペッパー油、サプライヤー92社、旋光度欄は −1.00〜−23.00。
グレープフルーツ油と ジュニパーベリー油の記事で似た助言を書いた。 旋光度と比重は受け取ってから自分で再確認できる欄だ、と。 グレープフルーツ油ではその助言が成立する。範囲が +91〜+96、わずか5度なので、 測って外れていれば何かが起きている。
ブラックペッパー油では、同じ助言がほとんど働かない。 合格範囲が−1から−23まで広がっているなら、測って出たどの負の値も規格内になる。
つまりこの欄が検品に使えるかどうかは、それがどれだけ広いかで決まる。 ならば全体の幅を測ればいい。
141件の幅の分布
旋光度欄を持ち、サプライヤーが20社以上ある材料は 141件。 上限と下限の差を取ると、幅の中央値は10.0度になる。
狭いほう(サプライヤー50社以上):
| 材料 | 旋光度欄 | サプライヤー | 幅 |
|---|---|---|---|
| フランキンセンス油 | −0.05〜0.00 | 93 | 0.1 |
| クローブバッド油 | −2.00〜0.00 | 128 | 2.0 |
| クローブリーフ油 | −2.00〜0.00 | 109 | 2.0 |
| 酢酸ネリル | −1.00〜+1.00 | 65 | 2.0 |
| イモーテル花油 | −2.20〜+0.10 | 52 | 2.3 |
| シナモンリーフ油 | −2.00〜+1.00 | 52 | 3.0 |
広いほう:
| 材料 | 旋光度欄 | サプライヤー | 幅 |
|---|---|---|---|
| バージニアシダーウッド油 | −2400〜−38.00 | 85 | 2362 |
| 圧搾ライム油 | +35.00〜−41.00 | 34 | 76 |
| ガージュンバルサム油 | −60.00〜0.00 | 39 | 60 |
| アミリス木油 | +10.00〜+60.00 | 51 | 50 |
| ダバナ油 | +15.00〜+60.00 | 71 | 45 |
| α-フェランドレン | −80.00〜−120.00 | 35 | 40 |
ブラックペッパー油の幅は22で、141件中 16番目に広い。
同じ欄で、最も狭いのが0.1度、最も広いのが2362度。 これは統一して読める欄ではない。
特に見る価値のある二つの形
**バージニアシダーウッド油の−2400。**精油の比旋光度がマイナス2400度になることはなく、 この桁は物理的に成り立たない。−24.00の小数点がずれたように見えるし、 下限の−38.00もその読みを支持する(−24から−38はシダーウッド油として妥当な範囲になる)。 問題は、この材料に サプライヤーが85社あることだ。主流の品目の物性欄に、 ありえない数字が横たわっている。
圧搾ライム油の+35〜−41。この範囲はゼロをまたぐ。 合格範囲が右旋と左旋の両方を含むなら、0.0と測れた試料も規格内になる。 ゼロを含む範囲は、何も排除できない。
この二つの形はデータベース上で印が付くわけではない。欄に値はあり、書式も正しい。 数字を読み込んで初めて、一方は壊れていて、もう一方は識別力がないと分かる。
規格に合うことは、本物であることではない
2024年、Linge らが《J Agric Food Chem》で市販ティーツリー油の鑑定手法を比較している (PMID 38568986)。背景は、世界的な需要の高まりが市販品の偽和を増やしたことにある。
彼らは新しい対掌体ガスクロマトグラフィー質量分析法を用い、含量0.01%超の主要テルペン成分を 分析して、偽和を見分ける複数の方法を検証した。試料は由来の明らかなオーストラリア産の 真正品88件と、酸化した試料12件。
結果の第一層は良い知らせだ。これらの試料は ISO 4730:2017 の推奨範囲および 既報の対掌体比と一致した。そして p-シメンが酸化の主要な指標と同定された。 ISO 4730:2017 が挙げる15成分は全イオンクロマトグラムのピーク面積の 84.5〜89.8% を占め、 53のピークがすべての試料で追加検出された(7.3〜11.0%)。
第二層が本稿の要点になる。著者の結論は、ISO 4730:2017 標準との比較は、 偽和されたティーツリー油の試料を必ずしも識別しないというものだ。 未偽和・未酸化のティーツリー油を明快に判別できるのは、適切な対掌体比の分析に p-シメンの百分率の定量を加える方法だった。
言い換えると、規格範囲に収まっていて、なおかつ偽物である油はありうる。 規格範囲の役割は明らかにおかしいものを排除することであって、正しいものを証明することではない。
同じ年、Wang らがペパーミント油で並行する仕事をしている(PMID 38101286)。 冒頭で、ペパーミント精油はコスト削減と利益増のためにしばしば偽和されると述べ、 ISO 標準が存在するにもかかわらず、従来法とキラル GC/MS を組み合わせ、 さらに化学計量学を加えた統合的な手法を採っている。手法の選択そのものが一つの判断になる。 一層だけでは足りない、ということだ。
ではこの欄をどう使うか
- **数値より先に幅を見る。**上限から下限を引く。幅が3度以内のもの(フランキンセンス、 クローブ、シナモンリーフ)は、測って外れていれば信号になる。20度を超えるものは、 測っても何も言えない。
- **ゼロをまたぐ範囲は諦める。**圧搾ライム油のような書き方に識別力はない。
- **ありえない数字はデータの誤りとして扱う。**特殊な材料ではない。−2400度はシダーウッド油の性質ではない。
- **この欄は真贋の証明ではない。**比重や屈折率と同じく、排除法の第一段にすぎない。 真贋の判断にはキラル GC と同位体が要る。バニラエキストラクトと δ-デカラクトンで扱ったのは同じ種類の道具だった。
- 以前の助言はこう読んでほしい。「受け取ったら旋光度を測る」はグレープフルーツ油(幅5度)では 有効で、ブラックペッパー油(幅22度)では有効でない。違いは方法ではなく、 その材料の規格がどれだけ緩いかにある。
→ 香調で検索:42,225件の原料。物性欄も引けます。
この記事が立証していないこと
- バージニアシダーウッド油の−2400を小数点のずれと判断したが、出典に確認はしていない。 確認したのは、その桁が精油の比旋光度として成り立たないことだけになる。
- 幅の統計はその欄が埋まっていてサプライヤー20社以上の141件のみを対象とし、 全体42,225件ではない。
- **幅が広いことがデータ品質の低さを意味するとは限らない。**産地差が本来大きい天然油もあり、 広い範囲は正直な記述でありうる。本稿が言っているのは「広い範囲に識別力はない」であって、 「広い範囲は誤りだ」ではない。
- ティーツリー油の論文の結論は ISO 4730:2017 とティーツリー油についてのもので、 旋光度欄についてでも、このデータベースについてでもない。 「規格に合うことは本物であることではない」という一般的な形の説明に使っている。
- ペパーミント油の論文の抄録は、こちらが取得した記録では途中で切れていた。 手法の選択と冒頭の動機の記述だけを引いている。