原料図鑑 · 166
原料図鑑:クローブバッド油 —— 一つの CAS の下に12件の記録、蕾・葉・茎は別々の商品
· 12 分
CAS 8000-34-8、サプライヤー128社、全体でサプライヤー数8位。この CAS が結びついているのは一本の材料ではなく12件だ。蕾油、葉油、茎油、蕾コンクリート、アブソリュート、レジノイド、オレオレジン、CO2抽出、葉アブソリュート、脱テルペン葉油。同じ番号の下に、三つの植物部位と六つの抽出法が入っている。主要な三本の油はそれぞれ FEMA 番号を持ち(2323、2325、2328)、香気欄が違い、残香は188、116、176時間、比重と屈折率の範囲も重ならない。しかも蕾油と葉油の沸点欄には同じ251 °C が入っている。混合物が持つはずのない数字だ。安全の節はもっと立ち止まる価値がある。二本の油の GHS は皮膚刺激・眼刺激・気道刺激で、感作は入っていない。ところが2021年の総説によればオイゲノールは少なくとも50%を占め、データベースのオイゲノール自身の GHS は一行目が皮膚感作の区分1である。2023年の《Contact Dermatitis》に載った欧州6施設の研究は、オイゲノールのパッチテスト陽性を0.031%まで測っている。
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長い話を短く
- 名称:clove bud oil(クローブバッド油、丁子蕾油)、CAS 8000-34-8、FEMA 2323
- サプライヤー128社、全体で8位。天然油の中では最も手に入りやすい部類
- 香調型 spicy。香気:スパイシー、芳香、バルサミック、ウッディ、フルーティ、ミント、フェノール、パウダリー、甘い、クローブ、薬感
- 残香 188時間 @100%、強度 medium
- 同じ CAS の下に12件の記録があり、三つの植物部位と六つの抽出法をまたぐ
- GHS:H315 皮膚刺激、H319 強い眼刺激、H335 気道刺激。感作の行はない
- 保存期間24か月、比重 1.038〜1.060、密封・遮光
一つの CAS、12件の記録
いちばん踏みやすいところから。CAS 8000-34-8 でこのデータベースを引くと、 返ってくるのは一本ではなく12件になる。
| 記録 | サプライヤー | FEMA |
|---|---|---|
| clove bud oil(蕾油) | 128 | 2323 |
| clove leaf oil(葉油) | 109 | 2325 |
| clove stem oil(茎油) | 34 | 2328 |
| clove bud oleoresin(オレオレジン) | 24 | 2324 |
| clove bud absolute(アブソリュート) | 15 | 無 |
| clove bud oil CO2 extract | 10 | 無 |
| clove bud concrete(コンクリート) | 2 | 無 |
| clove bud resinoid(レジノイド) | 2 | 無 |
| clove flower oil | 2 | 無 |
| clove leaf oil terpeneless(脱テルペン葉油) | 2 | 2325 |
| clove leaf absolute | 1 | 無 |
| clove leaf resinoid | 1 | 無 |
ここでの CAS は植物を指しているのであって、製品を指していない。 同じ番号の下に三つの植物部位と六つの抽出法が同居する。 FEMA 番号のほうがまだ分けている。蕾・葉・茎にそれぞれ一つある。 FEMA 番号は識別子ではないでは逆向きの問題を扱ったが、 これは同じ話の裏面になる。CAS も識別子ではない。
見積書に CAS 8000-34-8 としか書かれていないなら、その見積書は 何を買うのかに答えていない。
蕾・葉・茎:三本の油は欄の形が違う
| 蕾油 | 葉油 | 茎油 | |
|---|---|---|---|
| FEMA | 2323 | 2325 | 2328 |
| サプライヤー | 128 | 109 | 34 |
| 残香(時間 @100%) | 188 | 116 | 176 |
| 香気欄に増える語 | フルーティ、甘い、クローブ | ペッパー | 脂 |
| 比重 @25 °C | 1.038〜1.060 | 1.036〜1.046 | 1.048〜1.056 |
| 屈折率 @20 °C | 1.527〜1.535 | 1.530〜1.538 | 1.534〜1.538 |
| FCC 収載 | Yes | No | No |
| GHS | H315 / H319 / H335 | H315 / H319 / H335 | (欄は空) |
| 毒性欄 | LD50 3件 | LD50 3件 | Not determined |
| 化粧品用途 | 香料、賦香 | 香料、賦香、スキンコンディショニング、トニック | 賦香、スキンコンディショニング |
三本とも香気欄の先頭4語は完全に同じ(スパイシー、芳香、ウッディ、バルサミック)で、 違いはその後ろにある。蕾油はフルーティ・甘い・クローブが増え、葉油はペッパー、 茎油は脂が増える。比重の範囲は互いに重ならず、実験室でいちばん見分けやすい欄になっている。
残香の三つの数字は直感的な順序に並ばない。蕾188、茎176、葉116。 いちばん安く、オイゲノール採取に最もよく回される葉油が、記録上は最も短い。
沸点欄の同じ数字
蕾油と葉油の沸点欄には、どちらも 251.00 °C @ 760 mmHg が入っている。
精油は混合物であり、混合物に単一の沸点はない。 組成比の違う二つの混合物に同じ沸点が書かれているなら、説明は一つしかない。 その数字はこの二本を測って得たものではなく、主成分から借りてきたものだ。 オイゲノール純品の沸点欄は252〜253 °C である。
二つの欄が同じ数字を持つときで このパターンを測っている。天然油の物性欄は選んで読む必要がある。 比重と屈折率は各社の実測レンジだが、沸点と水溶解度のあたりには 推定と借用の痕跡が残っている。
オイゲノールが半分以上を占め、その GHS は油とは違う
2021年、メキシコ・ハリスコ州の研究センターの Haro-González らが《Molecules》に クローブ精油の総説を出している(PMID 34770801)。六つの抽出法が 揮発性成分の濃度に与える影響を比較したものだ。
組成についての一文は書き写しておく価値がある。オイゲノールが主成分で、少なくとも50%を占める。 残りの10〜40%は酢酸オイゲニル、β-カリオフィレン、α-フムレンである。
この三つをデータベースに戻して見る。
| 成分 | サプライヤー | 残香(時間) | GHS の一行目 |
|---|---|---|---|
| オイゲノール | 97 | 52 | 皮膚感作 区分1、H317 |
| 酢酸オイゲニル | 44 | 400 | (欄は空) |
| β-カリオフィレン | 61 | 44 | 急性毒性 経口 区分4、H302 |
| α-フムレン | 16 | (空) | (欄は空) |
この表から二つ落ちてくる。
**一つ目。油全体の残香が、その主成分より長い。**オイゲノール単体は52時間、油は188時間。 酢酸オイゲニルの400時間がおそらく理由の一つだろう。ただしこれらの数字は 各社が各々の試香紙で報告したもので、同一の実験群ではない。方向としてしか使えない。
二つ目、こちらが重要になる。油の GHS に感作はなく、オイゲノールの GHS は一行目が感作だ。 蕾油と葉油の GHS は H315 皮膚刺激、H319 強い眼刺激、H335 気道刺激。 刺激と感作は別物で、刺激は量が足りれば誰にでも起きるが、感作は免疫系が覚えたあと毎回反応する。 半分以上がオイゲノールの油に、欄の上では H317 が見えない。
混合物の GHS 分類には独自の計算規則があり、供給元の SDS がカタログと一致するとも限らない。 それでも使う側としては、油の欄だけを見て感作リスクがないとは読めない。
欧州6施設が0.031%まで測った
2023年の《Contact Dermatitis》に、オイゲノールの用量関係を細かく詰めた研究がある (Ofenloch ら、PMID 37218587。ハイデルベルク、オーデンセ、バーリ、バルセロナ、ルンド、 アリカンテの6施設)。
設計はこうなる。被験者67名。まず21日間、1日2回の反復オープンアプリケーションテスト(ROAT)を、 2.7%から0.5%までの三濃度と対照で実施する。ROAT の前後にパッチテストを行い、 そちらは 2.0%から0.00006%まで17濃度を使う。
結果を原文どおりに並べる。オイゲノールに接触アレルギーのある34名のうち、 ROAT 前のパッチテスト陽性は21名(61.8%)で、陽性が出た最低濃度は0.031%。 ROAT は19名(55.9%)が陽性で、反応が出るまでの時間は塗布濃度と負の相関を示し、 パッチテストで定義したアレルギー反応性とも負の相関を示した。
いちばん覚えておく価値があるのは最後の段落だ。 13名(38.2%)ではパッチテストの結果が再現しなかったが、 その13名のうち4名(31.0%)は ROAT が陽性になっている。
つまり、一度のパッチテスト陰性はアレルギーがないことを意味しない。 著者の結論は、オイゲノールは非常に低い濃度でも陽性反応を起こしうる、というものだ。 0.031% という数字を調香の文脈に置くと、オイゲノールを50%含む油は、 処方中0.062%の使用でオイゲノールをその桁に届かせることになる。
買い方と保管
サプライヤー128社、全体8位。供給は問題にならない。実務的な点をいくつか。
- **見積書では部位を訊く。**CAS だけでは足りない。蕾・葉・茎は価格も香りも違うのに、 一つの CAS を共有している。FEMA 番号か bud/leaf/stem の明記を求めること。
- **届いてから自分で確かめられることが一つある。比重だ。**三本のレンジは重ならない。 1.038〜1.060(蕾)、1.036〜1.046(葉)、1.048〜1.056(茎)。 GC に出さずにできる一次判別になる。
- 保存期間24か月。冷暗所、密封、熱と光を避ける。フェノール類は酸化して色が濃くなる。
- 強度 medium。推奨評価濃度はデータベースに入っていない。処方中の位置づけからすると 10%希釈から始めるのが妥当な出発点になる。
- 肌に乗せる処方では最新版 IFRA Standards と EU のアレルゲン表示規則を自分で確認すること。 法規欄の FEMA GRAS は食品としての身分であって、化粧品の許可ではない。
→ データベースのクローブバッド油:物性一式、128社の供給元、推奨ブレンド。
この記事が立証していないこと
- **混合物の GHS 分類には独自の規則がある。**油に H317 がないことが表示漏れとは限らない。 指摘しているのは、使う側がその欄だけを見てはいけないということであって、 カタログの誤りを主張しているのではない。
- 三本の残香の数字は別々の供給元の試香紙記録であって、同一の対照実験ではない。 「油のほうがオイゲノールより長い」は方向であって定量ではない。
- 総説の「少なくとも50%」は産地と抽出法をまたいだ概括で、 手元のロットの実際の比率は COA を見るしかない。
- 0.031% はその研究の既感作集団における最低陽性濃度であって、安全上限でも、 一般の人に対する閾値でもない。IFRA と EU の制限値は別の根拠に基づく。
- 沸点の借用は数字の一致からの推論で、元の測定記録は入手していない。