原料図鑑 · 55
原料図鑑:γ-ウンデカラクトン(アルデヒド C-14)—— アルデヒドでもなく、炭素も14個ない
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CAS 104-67-6。ピーチとアプリコットの材料で、供給元119社、ムエット338時間。通称の「アルデヒド C-14」は二重に誤っている。アルデヒドではなくラクトンであり、分子式は C₁₁ で炭素は14個ない。データベースですら名前のあとに so-called と付す。2026年の研究はカンジダ・アルビカンスに対する MIC を 112.5 µg/mL と測り、環の原子が一つ多いだけの δ-ウンデカラクトンには活性がまったく見られなかった。
データベースの登録名はこう書かれている。
gamma-undecalactone (aldehyde C-14 (so-called))
括弧の中の so-called が、この記事の出発点になる。
まず要点
- ピーチとアプリコットの材料で、クリーム感、ココナッツ、脂感を伴う。供給元119社、入手しやすい。
- 通称の「アルデヒド C-14」は二重に誤っている。アルデヒドではなくラクトンであり、分子式は C₁₁H₂₀O₂、炭素は11個で14個ではない。
- ムエット 338時間。配合量の中央値は 1.40% にとどまる。存在感が強いからだ。
- ラット経口 LD50 は 18,500 mg/kg。このシリーズでも異例に寛容な数字になる。
基本データ
| CAS | 104-67-6 |
| 化学名 | ウンデカノ-1,4-ラクトン |
| 通称 | アルデヒド C-14(誤称。下記参照) |
| 分子式 | C₁₁H₂₀O₂ |
| 分子量 | 184.28 |
| 種別 | 天然に存在し、合成も行われる |
| 香調 | フルーティ、ピーチ、クリーミー、脂感、ラクトン様、アプリコット、ケトン様、ココナッツ |
| 香調分類 | fruity |
| 強度 | 中(10% 以下での評価を推奨) |
| 持続 | 338 時間(ムエット、原液 100%) |
| 外観 | 無色から淡黄色の澄明な油状液体 |
| 沸点 | 297 °C @ 760 mmHg/164–166 °C @ 13 mmHg |
| 引火点 | 93.33 °C |
| 比重 | 0.941–0.947 @ 25 °C |
| 屈折率 | 1.449–1.454 @ 20 °C |
| logP | 3.30(推定) |
| 天然での存在 | 桃、アプリコット、プラム、パッションフルーツ、リンゴ果汁、バター、乳製品、キンモクセイアブソリュートに微量 |
| 保管 | 24か月以上。冷暗所、乾燥、密閉、熱と光を避ける |
| 法規収載 | FEMA 3091、JECFA、CoE、FLAVIS |
| 供給元 | 119 社 |
| コーパス順位 | 28位(953件中85件、8.9%、配合量の中央値 1.40%) |
名前が二重に誤っている
19世紀末以降、香料工業は一連の脂肪族アルデヒドを「アルデヒド C-n」という番号で呼んできた。デカナールはアルデヒド C-10、ラウリンアルデヒドは C-12。カルボニルがアルデヒドで、炭素数も合っていたから、その慣習には筋が通っていた。
これはそのどちらでもない。
同一分子上のカルボン酸とヒドロキシ基が閉環してできた五員環のラクトンであり、化学的にアルデヒドとは無関係になる。しかも炭素は11個で、14個ではない。
どうしてこの名前になったかについては説が分かれる。よく聞くのは、既存の「アルデヒド」という商業シリーズに載せて売られたから、というものだ。理由がどうあれ、化学的にはまったく誤った名前が今日まで残っている。だからデータベースも so-called と付けるしかない。
原料の名前は人を欺くが扱っているのと同じ問題であり、これはその最も極端な例になる。名前が誤っているのは綴りではなく、分類のほうだ。
実務上は、供給元とのやり取りに CAS 104-67-6 か系統名を使う。処方表に「aldehyde C-14」とあれば、それはこの材料を指しており、炭素14個のアルデヒドではない。
フルーティ群の中心
ペアの分析では、フルーティエステル群で最も lift の高いペアを持つ。
| ペア | lift | 同居件数 |
|---|---|---|
| γ-ウンデカラクトン + 2-メチル酪酸エチル | 7.69 | 24 |
| γ-ウンデカラクトン + Verdox | 5.26 | 23 |
| γ-ウンデカラクトン + 酢酸ヘキシル | 5.19 | 25 |
7.69 はコーパス全体で最も高い lift になる。三本のエステルが新鮮さ、歯ざわり、噛んだ瞬間を担い、このラクトンが果肉と熟れを担う。果実のアコードがまとまらないとき、欠けているのはたいていこちら側になる。
γ-デカラクトンとは隣り合わせで、炭素が一つ違う。デカラクトンはピーチとココナッツに寄り、ウンデカラクトンはより厚く、よりアプリコットになる。二本を並べて嗅ぐ練習には価値がある。
環の大きさが活性を決める
Yoshida らは2026年、Current Issues in Molecular Biology で、炭素数8から11の中鎖脂肪酸、そのラクトン、部分フッ素化した脂肪酸のカンジダ・アルビカンスに対する抗真菌活性を測定した。
脂肪酸には明確な傾向があった。鎖が長いほど活性が強い。オクタン酸とノナン酸はいずれも最小発育阻止濃度(MIC)225 µg/mL、最小殺菌濃度(MFC)450 µg/mL。デカン酸とウンデカン酸では MIC 112.5 µg/mL、MFC 225 µg/mL まで下がる。
γ-ウンデカラクトンは MIC 112.5 µg/mL、MFC 225 µg/mL で、ウンデカン酸と同じだった。カルボキシル基を五員環のラクトンに閉じても、活性は落ちていない。
面白いのは対照になる。同じ炭素11個でも六員環の δ-ウンデカラクトンには抗真菌活性が観察されず、部分フッ素化脂肪酸にも見られなかった。重回帰分析では分極率が MIC・MFC と有意に関連していた(R² = 0.78、p < 0.05)。走査型電子顕微鏡では、MIC 濃度でもカンジダは菌糸やバイオフィルムを形成し、死滅が観察されたのは MFC 以上だった。γ-ウンデカラクトン自体に溶血活性は見られていない。
これは in vitro の微生物学であり、化粧品の防腐の根拠でも、まして健康上の主張でもない。 ここに置いたのは構造の対照のためになる。γ と δ は環の原子が一つ違うだけで、生物活性が「ある」から「ない」へ変わる。 調香する側にとって、名前の前のギリシャ文字が飾りではないことの良い注意書きになる。
隣の材料は生物生産されつつある
Carballido らは2026年、Bioresource Technology で、Ashbya gossypii という真菌を用いた γ-デカラクトンのデノボ発酵生産の工業的成立性を、技術・経済・環境の三面から統合的に評価した。
先に断っておく。あの論文が扱うのは γ-デカラクトン(C10)であって、本稿の γ-ウンデカラクトン(C11)ではない。 隣の材料になる。ここに置いたのはプロセスの論理が共通し、生物生産される香料の線の最新の一件だからだ。
シミュレーションでは、吸着樹脂と抽出後のエタノール回収を含む下流工程を経て、最終純度が 96% 近くに達する。技術経済評価は、経済性がミオイノシトールのコストと低い発酵力価に強く左右されると指摘しつつ、市場と工程改善の条件が整えば競争力を持ちうるとする。ライフサイクル分析が挙げた主な環境負荷は、無機塩、蒸気、樹脂になる。
「天然」という表示に何が起きるかも書き留めておきたい。発酵ルートの産物は多くの市場で天然と表示できる一方、従来の抽出ルートははるかに高コストで供給リスクも大きい。天然と合成の線は、ここでもまた曖昧になる。
嗅ぐときに
- 1% から始める。 コーパスの中央値 1.40% は控えめさではなく、実際に自己主張が強い。
- γ-デカラクトンと並べる。 炭素一つの差が、ピーチをアプリコットへ動かす。鎖長が匂いを変えることの最も安上がりな実演になる。
- クリームとココナッツに注意する。 濃度を上げると果実が退き、乳とココナッツの脂感が残って、処方がもたつく。
- 長く残る。 338時間は、ドライダウンでも再会するという意味になる。フルーティなベースには効くが、トップには向かない。
買い方と保管
供給元119社で、安価かつ入手しやすい。名前について三点。γ と δ は別の材料、ウンデカラクトンとデカラクトンは炭素一つ違い、「アルデヒド C-14」は誤称。CAS 104-67-6 が最も確実な伝え方になる。
引火点 93 °C なので保管に防火上の懸念はない。保存期間は24か月以上、密閉と遮光で足りる。
法規と安全
GHS は五項目。H315 皮膚刺激、H319 重篤な眼刺激、H335 呼吸器への刺激のおそれ、H402 水生生物に有害、H412 長期的影響により水生生物に有害。 後ろの二つは、廃液を流しに捨てないという意味になる。
急性毒性は著しく低い。ラット経口 LD50 18,500 mg/kg は、このシリーズでも寛容な部類に入る。経皮 LD50 は未測定。
食品香料としての収載は充実しており(FEMA 3091、JECFA、CoE、FLAVIS)、桃、アプリコット、乳製品に天然に存在することと整合する。上限は現行の IFRA Standards を確認する。手順はこちら。
→ データベースの γ-ウンデカラクトン:物性の全項目、供給元119社、推奨ブレンド。 → 香調で検索:「ピーチ アプリコット クリーミー」と入力。
参考文献
M. Yoshida ほか, Antifungal Activity of Four Medium-Chain Fatty Acids and γ-Undecalactone Against Candida albicans, Current Issues in Molecular Biology, 48(2), 150 (2026). PMID 41751414. doi:10.3390/cimb48020150
A. Carballido ほか, De novo gamma-decalactone bioproduction from Ashbya gossypii: Process design, techno-economic evaluation and environmental assessment, Bioresource Technology, 458, 135029 (2026). PMID 42219126. doi:10.1016/j.biortech.2026.135029