原料図鑑 · 150
原料図鑑:メチルセドリルケトン(Vertofix)—— コーパスは5つの名前で呼び、データベースの正式名では3分の1しか拾えない
· 9 分
CAS 32388-55-9、サプライヤー71社。香調欄には1行にウッディ、ベチバー、アンバー、レザー、ムスク、シダーと並ぶ。6つの語でほぼウッディアンバーの和音ひとつぶんだ。954件の処方コーパスはこれを5つの名前で呼んでいる。vertofix が50回、methyl cedryl ketone が26回、acetyl cedrene が7回、vertofix coeur が3回。4つを統合すると86件の処方に現れ、9.0%を占め、使用量の中央値は5.44%。データベースの正式名だけで数えると26件になり、60件を取りこぼす。残香は400時間と書かれており、400はデータベースにおける「とても長い」というバケットのラベルだ。ただしこの材料の蒸気圧は0.000084 mmHgで、そのバケットの下位4分の1に入るので、ここでの400は信用できる。シダーウッド油のセドレンをアセチル化して作られ、occurrence 欄には not found in nature と書かれている。どちらも正しい。
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要点だけ
- 名称:methyl cedryl ketone(メチルセドリルケトン)、商品名 Vertofix(IFF)、acetyl cedrene とも、CAS 32388-55-9
- C17H26O、分子量246.39、サプライヤー71社
- 香調型 woody。香調はウッディ、ベチバー、アンバー、レザー、ムスク、シダー
- 強度は中(ランク2)、残香400時間、蒸気圧 0.000084 mmHg。ここでの400は信用できる
- コーパスは5つの名前で呼ぶ。4つを統合すると **86件(9.0%)**の処方に現れ、中央値は 5.44%
- データベースの正式名だけで数えると26件で、60件を取りこぼす
notes欄は1文しかなく、その1文が製法の手がかりになっている
1本で和音ひとつぶん
odor 欄は1行に6つの語を並べている。
ウッディ;ベチバー;アンバー;レザー;ムスク;シダー
多くの材料の香調欄は同じ方向の細分だ(ペリラアルコールのグリーン、クミン、カルダモンはどれもスパイス側にある)。 この材料は違う。ベチバー、アンバー、レザー、ムスクは伝統的な分類では4つの別々の家系であり、 1本の材料に同時に4つが付いている。
評価欄の3件の記述も同じことを言っている。
温かく高貴な木の香りにムスクの底韻。持続性と拡散性がある。ウッディ、シダー、レザー、ドライ。
温かく、ウッディ、シダーウッド、樹脂感、ムスクの底韻。長く残る。
サプライヤーが71社ある理由はここにある。これは下地を敷くための材料であって、修飾のための材料ではない。
コーパスは5つの名前で呼ぶ
954件の処方コーパスでこの材料を探すと、5通りの書き方が見つかる。
| コーパスでの表記 | 出現回数 |
|---|---|
vertofix |
50 |
methyl cedryl ketone |
26 |
acetyl cedrene |
7 |
vertofix coeur |
3 |
methyl cedryl ketone replacer |
2(別のもの、集計に含めず) |
最初の4つは同じCASだ。統合すると。
| 使用量 | |
|---|---|
| 出現件数 | 86件(954件の9.0%) |
| 中央値 | 5.44% |
| 四分位 | 4.00% – 8.50% |
| 最高 | 44.8% |
**データベースの正式名 methyl cedryl ketone では26件しか拾えない。**正式名で数えれば60件を落とし、
処方の9%が使っている材料を2.7%のマイナー材と誤認することになる。
名称が一致しない問題の規模は測ったし、
スチラリルアセテートで一度(2つの名前)、
使用量ランキングの首位で一度(dipg と dipropylene glycol)踏んだ。
5つの名前は現時点で最も深刻な例だ。
原因はここでは明快だ。商品名(vertofix)のほうが化学名より短く、言いやすい。 だから調香師は商品名を書く。データベースは化学名を収める。どちらも間違ってはいない。
この材料の400時間は信用できる
ちょうど前回書いたように、400時間はデータベースの全残香値の16.5%を占め、 「とても長い」というバケットのラベルであって測定値ではない。だから400を見たらまず疑うべきだ。
ただしこの材料は例外に値する。25 °Cの蒸気圧は 0.000084 mmHg。 400時間のバケット(蒸気圧を持つ137本)の四分位は0.000157から0.011で、 **この材料は第1四分位よりさらに低い。**あのバケットの中でも最も揮発しない側にいる。
言い換えれば、400というラベルはここでは正しい場所に貼られている。 同じバケットにいるイソ吉草酸(蒸気圧0.554で、d-リモネンより揮発しやすい)とはまったく事情が違う。
シダーウッドから来るが、自然界にはない
occurrence 欄には not found in nature と書かれている。
今回はこの記述が正しく、しかも経緯が見るに値する。バージニアシダー油(Juniperus virginiana)の 主成分はセドレンとセドロールで、2004年に Eller と Taylor が J Agric Food Chem で この木油の加圧流体抽出法を比較している(PMID 15080642)。
**そのセドレンをアセチル化するとこの材料になる。**骨格は自然が供給し、ケトン基は工場が付ける。
notes 欄は1文しかない。
Blends well with cedrenes.(セドレン類とよく調和する。)
最初はこの1文に中身がないと思った。あとで気づいた。 セドレンとよく合うのは、製品の中に未反応のセドレンがもともと入っているからだ。 処方上の助言が、同時に製法の手がかりになっている。
何と一緒に現れるか
86件の処方で最もよく同席するもの。
| 材料 | 回数 | 材料 | 回数 | |
|---|---|---|---|---|
| coumarin | 40 | linalyl acetate | 32 | |
| lilial | 37 | iso e super | 32 | |
| hedione | 37 | linalool | 31 | |
| dipg(溶剤) | 37 | citronellol | 30 | |
| benzyl acetate | 32 | alpha-hexyl cinnamaldehyde | 28 |
クマリンが首位、Iso E Super が7位。これはメンズのフゼア/ウッディアンバーの標準的な顔ぶれだ。 フローラルを作るための材料ではない。
欄の2つの空白
サプライヤーが71社ある材料で、2つの欄が空か、ほぼ空になっている。
toxicity_oralはNot determined。これはプレースホルダーであって「無毒」ではない- **法規欄はまるごと空だ。**FEMAもJECFAもCoEもない
法規欄が空なのには理由がある。純粋な香料であって食品香料ではないので、FEMA GRAS の名簿には載らない。 ただしそれは、このデータベースからは使用量の制限を判断できないということでもある。IFRA の基準を見ること。
2013年に Scognamiglio らが Food Chem Toxicol で acetyl cedrene の原料レビューを出しており (PMID 23907023)、毒性データはこの欄ではなくそちらにある。
この記事が示していないこと
- 5つの名前のうち統合したのは4つだけだ。
methyl cedryl ketone replacerは代替物であって同一物ではないので除外した。 ただしコーパスには私が気づかなかった表記がまだあるかもしれず、86件も過小評価の可能性がある。 - 9.0%はデモ処方コーパスでの比率であって、市販製品での比率ではない。
- **蒸気圧には
(est)が付いている。**400時間が信用できるという論証にそれを使っており、それは推定値だ。 - アセチル化の工程は検証していない。
Blends well with cedrenesと未反応セドレンを結びつけたのは私の推論で、 欄にも文献にも書かれていない。 - 香調欄に4つの家系が同時に付いていることは、その4種類を代替できるという意味ではない。 あの6語は評価者の記述であって、調香師への置き換え提案ではない。