原料図鑑 · 178
原料図鑑:trans-2-ヘキセナール —— 同名の記録が二つあり、片方はサプライヤー91社、もう片方は2社
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CAS 6728-26-3、サプライヤー91社。名前で引くと答えが二つ返ってくる。CAS 6728-26-3、91社、香気欄に12語のものと、CAS 85761-70-2、2社、香気欄が「グリーン、リーフ」の2語だけのもの。同じ名前、同じ分子式C6H10O、同じ分子量で、サプライヤーは45倍違う。備考欄はもう一つの罠も警告している。バルビツール酸系薬剤の別名 hexenal と混同しないこと。本サイトで扱った刈草系の三本に並べると、これが最も扱いにくい一本になる。リーフアルコールとその酢酸エステルは10%での評価を勧めるのに、これは1%。引火点38.33 °Cは三本で最も低く、保存期間12か月は最も短く、蒸気圧4.624は他の二本の四倍ある。文献二つ。2006年のキュウリの論文は機構を扱い、機械的損傷で誘導されるヒドロペルオキシドリアーゼがC6とC9のアルデヒドを切り出すこと、そしてC9アルデヒドが灰色かび病菌とフザリウムに対して、損傷組織中の濃度とほぼ同等の量で殺菌活性を示すことを報告した。同じ年のイタリアの論文はtrans-2-ヘキセナールの蒸気で西洋梨の青かびを抑え、処理6日後の残留が未熟果の天然含量より低いことを示している。
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長い話を短く
- 名称:(E)-2-hexenal(trans-2-ヘキセナール)、CAS 6728-26-3、サプライヤー91社
- 香調型 green。香気:グリーン、バナナ、アルデヒド、脂、チーズ、シャープ、フレッシュ、リーフ、クリーン、フルーティ、ハーブ、スパイシー
- 強度欄:high、1.00%以下での評価を推奨。同じ組のリーフアルコールと酢酸エステルはどちらも10%
- 残香8時間、蒸気圧 4.624 mmHg、引火点 38.33 °C、保存期間 12か月
- 法規は四項目すべて収載:JECFA、FEMA GRAS、CoE、FLAVIS
- **データベースに同名の記録が二つある。**もう一方はサプライヤー2社
同じ名前で、記録が二つ
「(E)-2-hexenal」でデータベースを引くと、答えが二つ返ってくる。
| id | CAS | サプライヤー | 香気欄 |
|---|---|---|---|
| 19207 | 6728-26-3 | 91 | グリーン、バナナ、アルデヒド、脂、チーズ、シャープ、フレッシュ、リーフ、クリーン、フルーティ、ハーブ、スパイシー(12語) |
| 19194 | 85761-70-2 | 2 | グリーン、リーフ(2語) |
同じ名前、同じ分子式C6H10O、同じ分子量98.14、正式名欄はどちらも trans-2-hexenal。 サプライヤーは45倍、香気欄の詳しさは6倍違う。
買うときも引用するときも、間違ったほうを掴めばほぼ空白の記録が手に入る。 同じCAS、違う香調型で測ったのは逆向きの問題だった。 こちらは同じ名前、違うCASになる。身分を判断するのはCASであって、 名前は候補を二つ差し出してくる。
備考欄はもう一つの名前の罠を警告している
この記録の備考欄にはこう書かれている。
do not confuse with the hexabarbital synonym, hexenal
**ヘキソバルビタールの別名 hexenal と混同しないこと。**バルビツール酸系の麻酔薬である。 「hexenal」という語は、香料の略称であると同時に薬の別名でもある。
この種の警告はカタログでは珍しく、しかも正しい場所に置かれている。
実際に人を害しうる同名衝突だからだ。同じ備考には
product of lipid peroxidation in the rat liver(ラット肝臓の脂質過酸化の産物)
という句も混ざっていて、ジュニパーベリー油の記事で
扱った継ぎ目の痕跡のもう一つの例になる。
刈草の組では、これが最も扱いにくい
本サイトはグリーンの組の他の二本を扱っている。三本を並べる。
| リーフアルコール | 酢酸シス-3-ヘキセニル | trans-2-ヘキセナール | |
|---|---|---|---|
| CAS | 928-96-1 | 3681-71-8 | 6728-26-3 |
| サプライヤー | 120 | 103 | 91 |
| 香調型 | green | green | green |
| 推奨評価濃度 | high、10%以下 | high、10%以下 | high、1%以下 |
| 残香 | 4時間 | 4時間 | 8時間 |
| 蒸気圧 mmHg | 1.039 | 1.219 | 4.624 |
| 引火点 | 61.11 °C | 57.00 °C | 38.33 °C |
| 保存期間 | 24か月 | 18か月 | 12か月 |
三本とも香調型は green だが、物性の階級が違う。この一本は蒸気圧が他の二本の四倍、 引火点は20度低く、保存期間はリーフアルコールの半分しかなく、 しかも十倍薄めてから嗅ぐことを勧められている。
アルデヒドがアルコールやエステルより活発なのは化学的に予想できる。 ただし欄がそれを数値にしている。同じ香調型の下で、操作条件が一桁違う。 「どれもグリーン」は「どれも同じように使える」を意味しない。
香気欄の後半も見る価値がある。バナナ、チーズ。グリーンに分類された材料に この二語が並ぶのは唐突だが、高濃度でアルデヒドが向かう方向がまさにそれになる。 1%を勧める理由の一つでもある。
植物は傷ついたときにこれを作る
2006年、山口大学の Matsui らが《Phytochemistry》でキュウリの 脂肪酸9/13-ヒドロペルオキシドリアーゼ(9/13-HPL)を研究している(PMID 16497344)。
機構はこうだ。この酵素は多価不飽和脂肪酸の9-または13-ヒドロペルオキシドを切断し、 それぞれ C9アルデヒドまたは C6アルデヒドを生じる。著者らはこの酵素の発現が 発生段階で制御され、胚軸・雌花・成熟果実で高いことを見出した。ただし成熟葉では、 転写も活性も機械的損傷によってのみ誘導された。
論文はこうも記す。多くの植物種のC6アルデヒドと同様に、 C9アルデヒドも組織の破壊後すみやかに形成された。
殺菌の部分は原文どおりに書く。殺菌活性を示したのはC9アルデヒドであり、 灰色かび病菌(Botrytis cinerea)とフザリウム(Fusarium oxysporum)に対して有効で、 毒性を生じるのに必要な濃度は破壊された組織中で見つかる量とほぼ同等だった。 著者がC9アルデヒドを傷口の消毒に適すると説明する理由はこうだ。 C6アルデヒドに比べて揮発しにくい。
つまり分業はこうなる。C6は逃げていって嗅がれるほう、C9は傷口に残って働くほう。 刈った草の匂いは、植物が傷ついたときに逃げていった半分ということになる。
その蒸気で西洋梨を守る
同じ年、ボローニャ大学の Neri らが応用側をやっている(PMID 16696666)。 trans-2-ヘキセナールの蒸気で 'Conference' 種の西洋梨を処理し、 青かび病菌(Penicillium expansum)による青かび病に対抗する。
条件は、果実に傷をつけて接種し、20 °Cで 12.5 µl/l の蒸気に暴露する。
結果の要点はタイミングにある。接種の24時間後または48時間後に処理すると 腐敗の減少が大きく、接種の2時間後の処理では効果がなかった。 処理後に−1 °Cで保存しても抗真菌活性は変わらなかった。
もう一組の数字が二つの目標を分ける。2時間の暴露で青かびは減らせるが、 果実のパツリン含量を下げるには少なくとも8時間が必要だった。 処理は果実の物理化学的特性に影響しなかった。
いちばん美しいのは残留の一文になる。処理後20 °Cで6日置いたあと、 処理果実中のtrans-2-ヘキセナール残留量は、未熟果実におけるこの化合物の 天然含量より少なかった。
著者の結論は抑制的だ。青かび病菌の防除における殺菌剤の天然代替になりうるが、 残留が持続しない条件をさらに研究する必要がある、と。
買い方と保管
サプライヤー91社、入手は容易。ただし同じ組の他の二本より操作は厳しい。
- **CAS 6728-26-3 を伝える。**同名の記録が二つあり、名前だけでは合致しないことがある。
- **1%以下での評価が推奨されている。**二段階希釈を先に作り、原液から直接嗅がない。 どの濃度で嗅ぐべきかの手順がここでは必須になる。
- **引火点38.33 °Cは、多くの夏の室温より低い。**換気し、火源から離す。 この欄は酢酸エチルの記事の引火点表と同じ階級の隣人だ。
- **保存期間12か月はグリーン三本で最短。**アルデヒドは酸化して酸になる。 小分けし、日付を書き、冷蔵する。
- 残香8時間、蒸気圧4.624 mmHg。トップノートで、しかも足の速いほうになる。
→ データベースのtrans-2-ヘキセナール:物性一式、91社の供給元、推奨ブレンド。
この記事が立証していないこと
- **同名の二記録のどちらのCASが正しいかは判定していない。**名前で引くと答えが二つ返り、 サプライヤー数が45倍違うと指摘しただけになる。
- キュウリの論文が殺菌活性を示したのはC9アルデヒドであって、本稿の主役のC6ではない。 生成機構とC6/C9の分業の説明に使っており、殺菌の結論をC6に当てはめてはいない。
- 西洋梨の論文は収穫後処理の応用研究であって、調香での使用量の安全性評価ではない。 12.5 µl/l という蒸気濃度と、処方中のパーセントは別の座標になる。
- 「バナナとチーズは高濃度でアルデヒドが向かう方向」はよくある実務上の言い方で、 データベースはそれらの記述語がどの濃度で書かれたかを記録していない。
- グリーン三本の物性比較はその欄が埋まっている記録だけを対象にしており、 ロットごとの実測値には差がある。