はじめての調香 · 20
エタノールと精油だけで香水は作れるか——作れる。ただし避けたはずの分子は瓶の中に残っている
· 14 分
精油とアブソリュートを一式買った人が、これで使えるEDPになるかと尋ねた。53件の返信は「作れるか」から「買ったものは本物か」へ急速に移った。953件の公開処方で天然物の比率を測ると、重量の中央値は4.5%、30%の処方は天然物を一切含まず、全部が天然物という処方は一つもない。さらに面白いのは、イランイラン油そのものが35.49%のリナロールでできていることだ。コーパスで最も頻出する単品がそれになる。
r/DIYfragrance に、注文したばかりの一覧が貼られた。沈香、ローズアブソリュート、スイカズラアブソリュート、安息香、ジュニパー、ベチバー、オークモス、ミツロウ、イランイラン。さらに家にはラベンダー、フランキンセンス、カモミール、ユーカリ、ティーツリーがある。問いはこうだった。パフューマーズアルコールとして Everclear を使い、香料20%対アルコール80%で混ぜるつもりだ。これで使える EDP になるか。ベンダー選びを間違えたか。
返信は53件。そして議論は「作れるか」から別の問いへ急速に移った。買ったものは本物か。
どちらの問いにも答える価値があり、どちらも調べられる。
まず要点
- 何かは作れる。 これは思いとどまらせるための記事ではなく、どちらの道を選んでいるのかをはっきりさせるための記事になる。
- ただし 953件の公開処方で、天然物は重量の中央値 4.5% を占めるにすぎず、30% の処方は天然物を一切含まず、全部が天然物という処方は一つもない。
- 天然物だけで作ることは、合成単品を避けることを意味しない。イランイラン油そのものが 35.49% のリナロールと 11.63% の酢酸ベンジルでできている。 コーパスで1位と2位の材料になる。束にして買っただけであり、比率を決めるのは自分ではない。
- スレッドの「スイカズラアブソリュートは存在しない」は誤りになる(データベースには供給元 4社)。ただしその疑いの向きは正しかった。再構成品は13社ある。
読了の目安は10分ほど。
公開処方に天然物はどれだけ入っているか
あのコーパスを処方ごとに分解し、名称に抽出を示す語(oil、absolute、resinoid、concrete、balsam など)を含み、再構成を示す語(replacer、base、specialty など)を含まない行を天然物として数えた。
| 953件の処方 | |
|---|---|
| 天然物の重量比 中央値 | 4.5% |
| 天然物の重量比 平均 | 13.0% |
| 天然物の行数比 中央値 | 8.7% |
| 天然物を一切含まない処方 | 285件=30% |
| 全部が天然物の処方 | 0件=0% |
分位数を見るとさらにはっきりする。第25百分位は 0.0%、第75百分位が 18.5%、第90百分位が 39.0%、第95百分位でも 55.0% にとどまる。このコーパスで最も天然物の多い層でも、なお半分ほどは単品になる。
この「0件」は慎重に読む必要があり、その理由は末尾の節で説明する。 ただしこの公開処方群の中で、全天然が実践されている作り方でないことは確かになる。
避けたはずの分子は、買った瓶の中にいる
ここが覚えておきたい節になる。
イランイラン油に天然に存在すると記録する原料を引くと、含量の多いものはこうなる。
| イランイラン油の成分 | 含量 |
|---|---|
| リナロール | 35.49% |
| 酢酸ベンジル | 11.63% |
| 安息香酸メチル | 6.50% |
| 安息香酸ベンジル | 6.19% |
| ゲルマクレンD | 5.55% |
リナロールと酢酸ベンジルは、まさに当サイトのコーパスで最も頻出する二本になる(処方の 35.4% と 33.2%)。どちらも単品として棚に並ぶ材料でもある。
つまりこうなる。イランイラン油を一本買うことは、三分の一がリナロールである混合物を買うことになる。 合成単品を使わないという選択は、その分子を処方から追い出してはいない。自分では動かせない固定比率で束ねて買い入れただけになる。
パチュリ油も同じ挙動を見せる。パチュリアルコール 33.74%、α-パチュレン 22.20%、β-カリオフィレン 20.64%、β-パチュレン 13.75%。四つの成分で九割を占める。
スレッドの一つが帰結をうまく言っていた。精油は数十から数百の天然香気分子を含み、混ぜすぎると「泥」ができて、持続も拡散もなくなる。別の返信は、精油は一般に50種以上の香気成分を含むと補足していた。この数字はむしろ控えめになる。 当サイトのデータベースでは、ラベンダー油に天然に存在すると記録する原料が 155件、レモン油が 132件、ベルガモット油が 110件、イランイラン油が 91件ある。精油だけで組む道の隘路は花ではなく、あの95%にある。
だから「精油5本の処方」は、化学的には5変数ではない。数百に近い。
スイカズラの論争
スレッドには判定に値する明快な事実の対立が生まれた。
投稿者はスイカズラアブソリュートを16ドルほどで買っていた。ある返信は言う。スイカズラアブソリュートは存在しない。 別の返信が返す。存在する(Hermitage が扱っている)。ただし非常に、非常に高い。
データベースによれば後者が正しく、そして前者の疑いもまた正しかった。
| 名称 | 種別 | 供給元 |
|---|---|---|
| honeysuckle fragrance | 再構成品 | 13社 |
| lonicera japonica flower extract | 抽出物 | 7社 |
| lonicera caprifolium extract | 抽出物 | 5社 |
| honeysuckle absolute | アブソリュート(CAS 8023-93-6) | 4社 |
| honeysuckle specialty | 再構成品 | 3社 |
| honeysuckle absolute replacer | 代替品 | 1社 |
| honeysuckle concrete | コンクリート | 1社 |
スイカズラアブソリュートは実在する。 CAS 8023-93-6、香調は甘い、脂感、フローラル、ジャスミン、オレンジフラワーと記録される。隣にはスイカズラのコンクリートとフラワーワックスもあり、コンクリートからアブソリュートへ至る抽出の連鎖の残り二つにあたる。それ自体が実在の傍証になる。
残りは供給元数が語る。実際に流通している花のアブソリュートと比べると、スミレ葉アブソリュート39社、ミモザアブソリュート36社、ローズアブソリュート20社。スイカズラアブソリュートは4社で、再構成の「スイカズラ香料」は13社ある。
専門でない流通経路で16ドル払って手に入るものは、アブソリュートより再構成品である公算がはるかに高い。 「ほぼ確実に偽物」という判断は正しく、「存在しない」という理由づけが誤っていた。
ここから自分で使える確認法も得られる。供給元数を見る。 実在してよく流通している天然物は二桁になる。一桁は、希少か高価か、その両方を意味する。
混ぜ物は自分では見抜けず、実験室でも一部しか捕まらない
スレッドはどの瓶が偽物かの推測にかなりの労力を割いていた。悪い知らせは、機器でもある程度までしか届かないことになる。
Simić らは2026年、Food Chemistry でスロベニア市場のローズマリー油とローレル油を分析し、化合物特異的同位体分析で混ぜ物検出の同位体指標を構築した。
彼らは手法の感度も評価している。ローズマリー油では、合成のリナロール画分が 19% を超えて初めて、偽装が疑われることがほぼ確実になる(95%の確率)。ローレル油の α-ピネンでは閾値が 47% になる。天然と表示された市販品を分析したところ、δ¹³C 値がいくつかの揮発性成分について偽装の可能性を示した。
この閾値は丁寧に読みたい。同位体比質量分析を使い、実験室で行っても、19〜47% を下回る合成の混入は捕まらないことがある。 自宅で鼻を使って捕まえられるものではない。
Park らの2026年の Critical Reviews in Analytical Chemistry の総説は、天然香料が混ぜ物に極めて弱いという一文から始まる。評価されている手法は、キラルGC-MS、全二次元GC、同位体比質量分析、機械学習のパイプライン。産業規模の装備になる。
実務的な結論は単純だ。検証できないので、供給元を選ぶことで代える。 スレッドで挙がっていた評判の良い天然物の取扱店の推薦は、自分で嗅ぎ分けようとするどんな方法よりも当てになる。
それで、作れるのか
作れる。この記事は天然物では香水が作れないと言っているのではない。天然を掲げるブランドの一群が存在するし、あのスレッドにも天然物だけで作って結果に満足していると書いた人がいた。
大事なのは、何と何を交換しているのかを知っておくことになる。
得るものは原料そのものの複雑さになる。良い天然物は数十から数百の分子の質感を最初から抱えており、単品を積み上げても届かない。
払うものは四つあり、いずれも測れる。
- 再現性。 同じ植物名でも、比率は10倍動きうる。ロットが変われば処方が変わる。
- 制御。 イランイランから酢酸ベンジルだけを取り出し、35%のリナロールを置いていくことはできない。
- 持続と拡散。 天然物だけで作っている人は、肌よりも布の上で長くもつと報告していた。よく聞く観察だが、引用できる測定研究は見つけられなかったので、一人の使用者の報告として扱う。
- 検証。 何を買ったのかを確かめられない。
中間の道もスレッドで挙がっていた。方向は天然物で作り、構造は少数の単品で補う。空間をつくるヘディオンや Iso E Super、それに後半を支えるムスクを一つ二つ、という組み方になる。コーパスの形もそれに近い。中央値は 4.5% でも、70% の処方には天然物が入っている。多くの公開処方は天然物を避けているのではなく、少なく、正確に使っている。
この記事が立証していないこと
「全天然の処方が0件」には深刻な選択バイアスがあり、これが本稿で最も重要な注意になる。 このコーパスの74%は特許や出典の行を伴い、特許の実施例はふつう新しい合成分子の用途を主張するために存在する。全天然の処方には特許上の価値がないので、そもそもこの種の文書に現れない。正しい言い方は「特許実施例中心のこの公開処方群には全天然のものがない」であって、「天然物では香水が作れない」ではない。後者は明白に誤りになる。
天然物の判定はキーワード照合になる。 essence や extract といった語について抽出検査では明らかな誤りは見られなかったが、それらの語を持たない天然物は漏れるし、一部の再構成品が紛れ込む可能性もある。
単離物という第三のカテゴリーは扱っていない。 リナロール、ゲラニオール、シトロネロールは天然物から単離することも合成することもでき、処方表はどちらかを語らない。この分類では非天然に数えているが、「精油だけで作れるか」という問いにはそれが正しく、純粋な合成品として読むべきではない。
同位体の研究が測ったのはローズマリーとローレルになる。 19% と 47% はその手法のその二本の精油に対する感度であり、他の精油へは移せない。
「天然物は拡散が弱い」の証拠は持っていない。 フォーラムの観察であり、知っておく価値があるから書いたのであって、示されたからではない。
参考文献
P. Simić ほか, Characterisation and authenticity assessment of rosemary and laurel essential oils using compound specific isotope analysis, Food Chemistry, 517, 149404 (2026). PMID 42068807. doi:10.1016/j.foodchem.2026.149404
J. Park ほか, Integrated Chiral Volatile Organic Compound, Gas Chromatography Mass Spectrometry, and Isotope Ratio Analyses with Interpretable Machine Learning for Flavor Authentication: A Critical Analytical Review, Critical Reviews in Analytical Chemistry, 1–25 (2026). PMID 42095887. doi:10.1080/10408347.2026.2661750
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